税理士 岸野康之 事務所

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税理士 岸野康之 事務所のブログ 一覧

公立病院の繰入金論議(1)

今日は「税理士の仕事 税務」を書こうと思っていたが、ふと新しい話題が湧いたので、こちらを優先することにした。

 

僕が尊敬している仕事仲間の方から、次のようなメールが来た。

これは、公立病院が地元自治体などから損失補填「的」にもらっている、繰入金に関する質問だ。

 

 

岸野さん、おつかれさまです。
(次の記事に関連する仕組みについて)もしご存じでしたらご教示ください。

 

公立病院への繰入金総額は8,083億円と総務省が答弁

安藤副会長が厚生労働委員会で公私の役割分担を質問

 全日病の安藤高夫副会長(衆議院議員、自民党)は3月13日、衆院厚生労働委員会で、地域医療構想における公私の役割分担について質問した。
 安藤副会長は2月27日の予算委員会分科会での質問に続いて公立に対する補助金の情報公開の状況、および繰入金の実態を質問した。
 総務省自治財政局の沖部望審議官(公営企業担当)は、自治体から公立病院への補助金は公表が義務付けられており、地方公営企業決算状況調査により公表されていると説明。2017年度の地方独法を含めた繰入金の合計額(決算ベース)は8,083億円であることを明らかにした。また、内訳については救急医療に1,155億円、周産期医療に205億円であると述べた。

 

さて、この記事にある「公立病院への繰入金総額は8,083億円」について。

①公立病院が受けている補助金の総額は8,083億円で、
それ以外に国や自治体から受けている補助金はないと理解してよいのでしょうか?
記事を読むと、8,083億円は自治体(県および市区町村)からの分だけで、
他に国から受けるものもあるという気もしますが…。

 

②8,083億円がすべてだとした場合、
その補助金の負担割合は、国、県、市区町村で、それぞれだいたい何%なのでしょうか?
そもそもこの繰入金について負担割合が決まっているのでしょうか?

 

お忙しいところ恐れ入りますが、何かご存じのことがあればいつでも結構ですので、お教えください。
よろしくお願いいたします。

 

 

 

このような、ご質問のメールだった。

 

実は、自治体病院だの地方交付税だのは、稀に自治体消費税の業務する人を除くと、完全に税理士の範疇外だ。

僕は前職事務所から15年以上、自治体病院の仕事をしているが、当時の職場では「自治体病院」と聞くだけで職員たちが逃げていったものだ。

僕も最初はやりたくなかったが、税務にはない醍醐味がクセになり、独立後のいまも重要な業務・ライフワークとなっている。

 

民間人の立場で、公共の議論の真ん中に混ざって仕事をするというのは、とても面白いと思う。

そして、このいただいたご質問と記事は、日本の医療政策の根本的欠陥に関する命題を、常に秘めている。

 

 

次回は、上記のメールに向けた、僕の返信メールをご紹介したいと思う。

 

岸野康之 拝(本日重量 外出中のため未計量  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))

税理士の仕事(6)医療のお客様、関与形態、特殊業務

当事務所は数人でワチャワチャ、大きい仕事はパートナー税理士とワチャワチャと、やっている。

医療のお客様がほとんどではあるが、他に個人のお客様もいるし、皆様それなりにバラエティに富んでいる。

 

 

1 当事務所の、お客様の種別

 

(1)医療法人や医療を行う法人

医療法人、医療をする一般社団法人は、当事務所で圧倒的トップシェア種別のお客様である。

 

(2)医療経営に密接な会社

いわゆるMS法人や、医療の美容部門などのお客様も結構いらっしゃる。

 

(3)スポーツ施設である法人

いまボクシングジム1件だが、実は医療と並んで、充実させたい部門である。

今後の秘かな目標でもある。

 

(4)相続や不動産売買など、突発事項が生じた個人

常にコンスタントに相続の相談、申告を行っている。

法人顧客のご家族の件から、飛び込みの個人さんまで様々だ。

 

(5)自営業者である個人、勤め人である個人

個人の確定申告は、流れでご依頼があった時は積極的にご一緒するようにしている。

それは報酬や事業としてではなく、この職業をやる限り、永遠に磨き続けるべき分野だからだ。

 

(6)自治体病院(地方公共団体)

開業して3年目あたりから、ちらほら自治体病院の仕事をするようになった。

勤務税理士時代の得意分野だったが、開業したらもうできない分野かな、と思っていた。

個人会計事務所で、地方公共団体と直接契約で病院業務をするのは楽しく、有難いことだ。

 

 

2 税理士業務の関与形態

 

種類別っぽくあげてみたが、その中でのお客様との関与の仕方、契約形態はもっと様々だ。

定価や価格表を付けている会計事務所もあるし、それはそれで明瞭で良いと思う。

当事務所には価格表はないが、税務申告書を作るほかに、次のような仕事の方法や動き方がある。

 

(1)毎月2回以上訪問、帳簿等の監査 + 報告、その他依頼を受けた調査など実施

(2)毎月1回訪問、帳簿等の監査 + 報告、その他依頼を受けた調査など実施

(3)年数回の帳簿監査または記帳作成、訪問 + 報告、その他依頼を受けた調査など実施

 

その頻度や内容はバラバラだが、お客様にお会いするときは、必ず報告書を持参する。

報告書は、会計ソフトからニューっと出てくるものでなく、Wordで手作りしている。

あと、役所での調べ事や株価・不動産査定など、依頼があるものは全部実施する。

 

よく「税理士の月次契約は、継続取引でイイよね」という人がいるが。

能力が高い大病院や、シビアな院長の月次顧問は、常にシビレっぱなしだ

真剣にやっている限りは、これほど厳しく手間がかかる仕事はない。

対トップでは、面談や報告の一回一回が本番勝負。

相手も医療・経営のプロ、こちらに不足があるときの指摘は鋭いから、まったく気が抜けない。

 

また、大病院・グループ法人の顧問業務は キャストが多い。

僕は経理業務を中心に、できる限りあらゆるセクションの方々と仕事をする

理事長、事務局(長)、経理部署、医療現場、場合によっては人事総務、医事課・・・

財務経理に留まらず、そのように動くのにはいくつか理由がある。

 

まず、財務を形成している人たちを知りたい、というのがある。

医事のことは医事課長に聞くのが一番だし、財務部では分からない契約のことは、総務に聞く。

人事で何かあるなら人事課、そこで分からないことは院長、看護部長・・・

財務というのは、そういう組織の集合体だから、組織の実態にも常に触れていたい。

 

それと副次的な理由として、組織の中を皆さんと動くことが、自ずと僕らのノウハウ蓄積になっていく。

同じ病院でもみんなやり方や組織形成が違い、中に入ると新しい発見ばかり。

そういうものが、次に行く医療機関で必ず役に立つのである。

 

ただ、他人様の組織の中を動く以上、「口が堅いこと」「人間関係への配慮」「自分との相性」など、気にすべきことは山ほどある。

口が滑ったら、相手の人間関係(理事長と総務課長が仲が悪い、みたいなもの)への配慮を欠いたら、あるいは最初からボクが嫌われたら。

何もかもが台無しになるかもしれないという、非常な緊張感で中に入っている。

ゴルゴ13でデューク東郷が「おれは1人の軍隊だ」と言っているが、一度その病院に入ると、まさにその気持ちで挑む気持ちになる。

 

ただ、さすがに本当の一人だと大組織を相手に長期戦はやれないし、ので、いくつかのお客様は、事務所の職員やパートナー税理士とのコンビネーションで、取り組んでいる。

僕は、税理士の月次業務で最大の魅力は、税務会計という重要業務を、一歩超えたところにあって。

お相手の規模に関わらず、自分も顧問先のチーム員の一人になった気持ちで、その組織の業務改善・業務円滑化に関われることだと思う。

そしてその動きが、「ボクはコンサルです」と言わずとも、常時コンサルテーションを提供する動きになっていると実感している。

 

 

3 そのほかの業務

 

まず、消費税の申告だけをお手伝いしている病院がある。

税務は他の税理士がいて、役員会議や、医局会議に出席するのがメインの病院もある。

スポット業務では、自治体間の負債に関する財務調整なども行う。

 

特に医療専門で仕事をしていて独特なのは、「出資持分の放棄」の業務だ。

相続税対策で実施する場合が大半だが、実は法人税を下げるためであったり、親族間争い回避のために実施する場合もある。

 

我ながら「何でも屋」だと思うが、医療機関という業種に限定しての「何でも」はなかなか楽しい。

最近は、全く違うタイプの税理士同士での連携も、少しずつできるようになってきたから、相談もお受けしやすい。

 

 

ということで、あまりまとまりがない文章だが、どんなお客さんがいるの?ということを書いてみた。

次回は、「税理士の税務」という、税理士の本丸について書いてみよう、かな。

 

 

岸野康之 拝(本日重量  85.8㎏(着衣)減らない・・  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))

税理士の仕事(5)現代の記帳 落とし穴

前回は、職業として税理士が行う「記帳代行」という仕事について、考えを述べてきた。

今日は、僕が最近実務で感じる「記帳」の落とし穴について、書いてみたい。

 

というのは、技術が進展した結果、思わぬところで「えっ?」という場面を見るようになったからである。

 

 

1 一見、美しい帳簿に見えてしまう

 

ところで、記帳が手書き伝票による技術職から、単なるデジタル入力作業となり。

データを落とし込む技術がある団体では、記帳すらせずに帳簿がある程度組成される。

すると、もはや人間が介在する余地は全く無く、業務が進んでいるように見える。

 

しかし、そこでまず盲点がある。

デジタルで作られた帳簿は、誰がどんな方法で作っても、そこそこ立派に見えるのだ。

手書きなら、未熟者が作ると未熟な帳簿になる。

しかし、デジタルの帳簿は誰が作って誤りがあっても、ボチボチ美しく見える。

 

数年前に、遠方のある病院に行った時、その団体では最初はきちっと経理されている、と思った。

ところがよく見ると、何もかもが誤った会計処理のオンパレードだった。

経理職員がいて歴史があって、組織が強固で、市販だが高価な会計ソフトが入っているから、つい油断するところだった。

 

そう、いまどきの会計ソフトなどは、誰がどんな風に作っても「何となくそれなり」に見えてしまうのが怖い。

 

 

2 実はちゃんと見ている人がいないかも

 

企業活動は絶えざるイレギュラーの積み重ねだから、帳簿も当然、イレギュラーが山ほど記録されている。

また、とりあえずデジタルで組成した帳簿には、スキャンミスや誤記、整理事項が山ほどある。

にもかかわらず、デジタルデータを正確に組み合わせることに専心していると、実は、帳簿を組成している人が「中身を見ていない」ことがある。

 

その帳簿を、課長や局長がOKして決裁印を押しているが、その管理職たちもジックリは見ない。

そうすると、僕のような外部の人間が、ノーチェック状態の帳簿を目にすることになる。

 

いや、もちろん帳簿のチェックも、僕らの大切な仕事なのだが。

驚くような誤字、誤記が満載の状態などにあると、真に見るべきところが見れなくなる。

 

伝票を手書きしたり、手で帳簿を記帳していると、そういう人が「おやっ?」と思うことが多くある。

毎日、何万という活字を入力していると、僅かな違和感に気付くものだ。

 

自社でも代行でも、とにかく気付く記帳者がいない、あるいはそういう目でチェックする人がいない、というのは怖いものがある。

 

 

3 そんなわけで、そこは会計事務所全般の「商機」であるはず

 

現状に対応できない事務所はあるし、クライアントの要望は多様化しており、会計事務所全体にストレスがかかる状況は、確かにある。

しかし、僕の目には、会計事務所は雑誌や外部の人が言うほど力を失っていないし、意外にAIに喰われていないと映る。

多くの事務所、税理士が上手にAI、フィンテック、DXなどを随所に取り込んでいるようだ。

 

こういう動きの中で良くないのは、「AIだー!いけー!」と、AIという波にやみくもに飛び込むことだと思う。

ある医療専門大手として有名な職員数百人の税理士法人が、久しぶりにホームページを見たら、AIのカタマリ事務所みたいになっていた。

実は、その事務所から当事務所に交代したお客様があり、確かにその法人は随所で自動化が進んでいた。

 

しかし、その税理士法人では、生身の人間がチェックしていないし、質問や助言も全然受け付けていなかった。

「ミスったらクライアントに怒られる、最低限の税務会計サービスだけ」を、徹底的に提供していたようだ。

 

本来は会計業務を省力した時間で、新しい付加価値を提供できるし、先方が組成した帳簿の詳細チェックはとても喜ばれる。

なのに、大手の〇〇さんともあろうものが、省力化だけに囚われて、本来の特殊技能まで失ったようだった。

省力化した結果、人件費を削るだけであれば、縮小均衡でいつの日か崩壊するだろう。

 

この流れは、会計事務所にとって「商機」だと思う。

もちろん、新しい流れをどんどん取り入れていく意味でも「商機」だ。

しかし僕は、この新しい流れに戸惑うクライアントたち、本質を見失っている会計事務所たちの狭間に、新しい仕事がたくさんあるように見える。

 

僕はいまは足元を固める時期で、大きく商機を見い出す時期にはないが。

大きい流れが来て、そこで進歩と混乱がある時期にこそ、そこ以外の場所に商機=勝機 があると思う。

 

岸野康之 拝(本日重量  外出先のため未計量  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))

税理士の仕事(4)記帳代行はいま

いま、世間では税理士の仕事についていろいろ言われている。

「顧問料が安い、価格破壊が進んだ分野」

「AIに取って代わられる仕事の一つ」

「IT技術の進展で、消滅する仕事になる」

 

などなど、マスコミや他業種の方々からは、いろいろなご意見が聞かれる。

その辺りの意見の中心には、常に「記帳代行」という業務の存在がある。

 

今日は、そこにクローズアップしてみよう。

 

 

1 記帳代行のダンピング

 

前回書いたが、会計ソフトが発達したために、ソフト上できっちり記帳ができたら、あとはボチボチ決算書などが作れるようになった。

記帳がデジタルでできれば、いくらでも修正や再集計ができるので、そういう点でも「特殊技能」までは求められない時代になった。

 

つまり記帳は、電卓打ちやワープロと同等の職能となり、ネット世界には「記帳代行 一月9,800円~」などと広告が踊るようになった。

しかし、いかに短時間で終わる仕事でも、労働集約型産業の会計事務所が、9,800円/月で業務を請け負うのは、僕の感覚では非効率なダンピングの極みだ。

もちろん、量や年商で価格は変わるようだが、とにかくそこに、低価格競争が起こっている。

 

 

2 記帳すら要しない帳簿作成の登場

 

記帳の価格が、安い時代になっただけではない。

例えば、銀行データやExcelデータをそのまま会計ソフトにインポートすれば、「記帳すらしないで帳簿が組成される

DX、金融工学の会計版とかフィンテックなどと言われていて、僕のお客さんでも大きいところでは、フル活用している。

 

預金通帳の中身は、銀行から来るネットバンキングデータを落とし込む。

現場の小口現金や出納帳などは、Excelで作っておけばCSVで吸い込める。

小さい企業体だと、レシートや請求書などのスキャンデータから、そのまま帳簿が組成されていく。

 

記帳という言葉が古くなり、記帳の行為が不要な面があるほどだから、その記帳を代行する意味も、相当変わってきている。

 

 

3 消滅する記帳代行と、残っていく記帳代行(僕の主観的な意見)

 

(1)もともと記帳代行には縁がない(経理機能がある)団体

上記2のような技術環境にあるから、これまで大変な労力で「自社内で」記帳していた大企業や組織では、記帳作業は激減した。

記帳データを吸い込んでチェックで修正し、必要な手作業などだけを分担して、実施するようになっていった。

ブラインドタッチ(古い)でバリバリ入力していた人が、とりあえずアラアラで記帳されたデータの修正、整理の仕事をするようになった。

 

ただ、僕が監査で出入りする大きい病院はこのスタイルだが、それはそれで漏れなくチェックするのは、結構大変だ。

そのため、経理課内のチェックと当事務所によるチェックの二重体制で、漏れなく点検されるようにしている。

 

(2)記帳代行→自社内記帳へ

よく金融パーソンやコンサルタントという業種の人が、「記帳代行は古い、失われていく」と言っている。

しかしそれは、「昔ながらのブラインドタッチ(古い)でバリバリ」スタイルが減るだけで、記帳の代行そのものは増えている気がする。

理由は簡単で、フィンテックスタイルの会計事務所に丸投げしたほうが、ラクだからだ。

 

従来、ある程度、企業側で手書き帳簿をアレコレしないと、会計事務所の記帳代行を依頼できなかった。

それはクライアント側にも会計事務所にも面倒くさいことで、一時期は「自計化」と称して、企業側・クライアント側で記帳させる流れにあった。

しかし「自計化」は、クライアント側に記帳人員や会計ソフトが必要で、ある程度規模がないと、経理体制を作れなかった。

 

(3)再び、自社内記帳→記帳代行へ

今はメール、Excel、パスワードのやり取りで、データを会計事務所に送れば、会計事務所も少ない労力で帳簿を作り上げることができる。

クライアント側に、再び「自計化する意味がなくなって」来て、クライアントと会計事務所で帳簿作成を上手に分担する時代になってきた。

 

因みに当事務所でも、記帳代行する案件は、普通に何件かある。

先日は、少し大きめの医療法人さんが、「帳簿作りまでお願いしたい」と仰っていたので、お引き受けした。

昔ながらの記帳もするし、Excel取込みなどを駆使した記帳も組み合わせるので、大した労力ではない。

 

かつて医療専門で有名な青木恵一税理士が「記帳代行は減らすが、無くさない。記帳させないと若手が育たない」と言っていた。

これは全く同感で、帳簿組成の経験がないと、要点も手の抜き方も分からないし、組織の成長に合わせて帳簿組織を育てられない。

僕は修業時代、拠点数が多い大組織の記帳代行を一人でやっていたから、いまクライアントの経理課職員たちと議論、仕事がしやすい。

 

 

 

というわけで、記帳という行為を実施する場面は、今後も省力化されて減っていくだろう。

しかし、AIやフィンテックによる記帳を監査・修正し、帳簿組織を完成させるのは人間だ。

記帳代行が古いか新しいか、などどちらでも良い話で、適正な帳簿組織の完成という結果にフォーカスして、最適な実務を行っていくべきである。

 

 

さて、次回はその「現代の記帳」にみられる落とし穴について、説明しておきたいと思う。

 

岸野康之 拝(本日重量  85.1㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))

税理士の仕事(3)「記帳」という作業の変遷

前回、税理士の仕事の中でも「記帳代行」と呼ばれる仕事がある、ということを書いた。

今日は、まず「記帳」とは何か、そしてどのように行われているかを書いてみよう。

 

1 記帳とは何か

 

記帳とは何か。

簡単にいうと、預金通帳、レシート、請求書その他、毎日のおカネや取引を、帳簿などに記録することで、家計簿の企業版だ。

 

記帳というのはこんな感じで、年間に数千行~数十万行の帳簿記録を作る作業である。

(これは当社の一部)

 

 

税金の申告では、税金計算のために作った帳簿書類を保存するのが法律上の義務なので、これは簡素にせよ綿密にせよ、しっかり作らねばならない。

そして、この帳簿をしっかり作らないと、その先にある決算書作成、さらに先にある税務申告・決算監査などができない

帳簿を作ることが、企業経済を支えているのである。

 

 

2 昔の記帳

 

ところで、昔は当然これを、手書きで作っていたのである。

手書き台帳のサムネイル

手書きで間違えないで作り、電卓を何千回も叩いて集計して、決算書を作る。

全部できたー、と思ったところで一ヶ所誤った数字があれば、作り直し。

それが、紙の世界だ。

 

そして企業規模を問わず、記帳をちゃんとする会社や団体には「手書きで伝票を書き、経理ができる担当者」が、結構いた。

税理士業務に「記帳指導」という項目があるが、紙で手書きで帳簿作成する時代には、その手書きする人たちに正しい記帳を教える仕事は、重要業務の一つであった。

 

しかし、手書きで帳簿を作れる経理担当者が、どこにでもいるわけではない。

それを会計事務所が「記帳代行する」仕事は、経理者がいない零細企業にとっては、重要な仕事であった。

 

 

3 記帳の変化

 

僕は、手書き記帳の時代にはこの仕事をしていないし、手書き記帳をしたことはない。

僕に限らず、ある世代以降は「会計ソフト」上の記帳しか、したことがないと思う。

因みに税理士試験は、短時間で帳簿記入と申告書作成を「手書きで」する試験である。

 

平成16年に僕がこの世界に入った時には、帳簿は完全に、会計ソフトで作成される世の中だった。

すでに、手書きで帳簿を作成する仕事から、この会計ソフトに記帳する仕事に代わっていたのである。

会計事務所が行う「記帳代行」も、当然手書きによる特殊技能から、会計ソフトを用いる記帳代行に代わっていった。

 

さて、記帳が手書きから会計ソフトに移り変わったことで、どんな変化が起きたのだろうか。

(1)記帳という作業に、字の巧拙、日本語の巧拙があまり関係なくなってきた。

(2)デジタルだと打ち込み、コピペなど容易でスピーディで、かかる時間が少なくなった。

(3)誤字脱字はもちろん、数字の修正等も容易になった(二重線を引く、とかいらない)。

(4)帳簿を作れば、あとはボタンをぽちっと押せば、決算書とか様々な書類が一発で完成する。

 

とにかく、上記の変化の中でも、(4)の影響が大きい。

手書き時代は、帳簿が完成してから電卓をさらに叩きまくるのが、会計業務の勝負だった。

ところが会計ソフトの時代は、帳簿をしっかり作ったら、あとはポチっと押すと決算書が印刷される

(1)~(3)の点で、「超・時間短縮」「誰でも容易に帳簿が作れる」となった上に、会計事務所の特殊技能が試される、(4)「決算書作り」がボタン一つでできるようになったのである。

 

僕は統計的な把握はしていないが、おそらく「記帳を代行する」という会計業務は、いまも昔もそれなりに存在する。

しかし、「記帳さえできれば決算書が作れる」時代に入ったことが、記帳代行という会計業務の意味を変えることとなったように思う。

 

 

次回は、この記帳代行という仕事について、勝手な個人的見解を書いてみたいと思う。

 

 

岸野康之 拝(本日重量  85.2㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))

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