税理士 岸野康之 事務所

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税理士の仕事(5)現代の記帳 落とし穴

前回は、職業として税理士が行う「記帳代行」という仕事について、考えを述べてきた。

今日は、僕が最近実務で感じる「記帳」の落とし穴について、書いてみたい。

というのは、技術が進展した結果、思わぬところで「えっ?」という場面を見るようになったからである。

1 一見、美しい帳簿に見えてしまう

ところで、記帳が手書き伝票による技術職から、単なるデジタル入力作業となり。

データを落とし込む技術がある団体では、記帳すらせずに帳簿がある程度組成される。

すると、もはや人間が介在する余地は全く無く、業務が進んでいるように見える。

しかし、そこでまず盲点がある。

デジタルで作られた帳簿は、誰がどんな方法で作っても、そこそこ立派に見えるのだ。

手書きなら、未熟者が作ると未熟な帳簿になる。

しかし、デジタルの帳簿は誰が作って誤りがあっても、ボチボチ美しく見える。

数年前に、遠方のある病院に行った時、その団体では最初はきちっと経理されている、と思った。

ところがよく見ると、何もかもが誤った会計処理のオンパレードだった。

経理職員がいて歴史があって、組織が強固で、市販だが高価な会計ソフトが入っているから、つい油断するところだった。

そう、いまどきの会計ソフトなどは、誰がどんな風に作っても「何となくそれなり」に見えてしまうのが怖い。

2 実はちゃんと見ている人がいないかも

企業活動は絶えざるイレギュラーの積み重ねだから、帳簿も当然、イレギュラーが山ほど記録されている。

また、とりあえずデジタルで組成した帳簿には、スキャンミスや誤記、整理事項が山ほどある。

にもかかわらず、デジタルデータを正確に組み合わせることに専心していると、実は、帳簿を組成している人が「中身を見ていない」ことがある。

その帳簿を、課長や局長がOKして決裁印を押しているが、その管理職たちもジックリは見ない。

そうすると、僕のような外部の人間が、ノーチェック状態の帳簿を目にすることになる。

いや、もちろん帳簿のチェックも、僕らの大切な仕事なのだが。

驚くような誤字、誤記が満載の状態などにあると、真に見るべきところが見れなくなる。

伝票を手書きしたり、手で帳簿を記帳していると、そういう人が「おやっ?」と思うことが多くある。

毎日、何万という活字を入力していると、僅かな違和感に気付くものだ。

自社でも代行でも、とにかく気付く記帳者がいない、あるいはそういう目でチェックする人がいない、というのは怖いものがある。

3 そんなわけで、そこは会計事務所全般の「商機」であるはず

現状に対応できない事務所はあるし、クライアントの要望は多様化しており、会計事務所全体にストレスがかかる状況は、確かにある。

しかし、僕の目には、会計事務所は雑誌や外部の人が言うほど力を失っていないし、意外にAIに喰われていないと映る。

多くの事務所、税理士が上手にAI、フィンテック、DXなどを随所に取り込んでいるようだ。

こういう動きの中で良くないのは、「AIだー!いけー!」と、AIという波にやみくもに飛び込むことだと思う。

ある医療専門大手として有名な職員数百人の税理士法人が、久しぶりにホームページを見たら、AIのカタマリ事務所みたいになっていた。

実は、その事務所から当事務所に交代したお客様があり、確かにその法人は随所で自動化が進んでいた。

しかし、その税理士法人では、生身の人間がチェックしていないし、質問や助言も全然受け付けていなかった。

「ミスったらクライアントに怒られる、最低限の税務会計サービスだけ」を、徹底的に提供していたようだ。

本来は会計業務を省力した時間で、新しい付加価値を提供できるし、先方が組成した帳簿の詳細チェックはとても喜ばれる。

なのに、大手の〇〇さんともあろうものが、省力化だけに囚われて、本来の特殊技能まで失ったようだった。

省力化した結果、人件費を削るだけであれば、縮小均衡でいつの日か崩壊するだろう。

この流れは、会計事務所にとって「商機」だと思う。

もちろん、新しい流れをどんどん取り入れていく意味でも「商機」だ。

しかし僕は、この新しい流れに戸惑うクライアントたち、本質を見失っている会計事務所たちの狭間に、新しい仕事がたくさんあるように見える。

僕はいまは足元を固める時期で、大きく商機を見い出す時期にはないが。

大きい流れが来て、そこで進歩と混乱がある時期にこそ、そこ以外の場所に商機=勝機 があると思う。

岸野康之 拝(本日重量  外出先のため未計量  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))


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