税理士 岸野康之 事務所のブログ 一覧
税理士の仕事(7)情報と資料 相続税編
さて、昨日までふっと公立病院ネタに逸れたが、再び「税理士の仕事」に戻りたいと思う。
僕らの仕事の中でもメインコンテンツである、税務についてお話してみたい。
1 税務に必要なものとは
税理士の、腕がイイとか悪いとか、経験が豊富か浅いかとか、知識があるとか無いとか。
人当たりがイイとか悪いとか、面倒見がイイとか悪いとか・・・色々あるにはあるけど。
僕は税務という仕事は、「情報と資料が揃っていれば、できる」仕事だと思っている。
必要なことは法律やテキストに書いてあり、難しいことも判例や裁決を見れるし、ネット時代は情報が取りやすい。
腕も知識も経験も、ある段階まで実務を重ねて来ると向上するし、税理士仲間と協力もできるから、あまり気にはならない。
あとは、税金の計算やその申告書面の作成に必要な、依頼者たちしか持ちえない情報と資料である。
税務申告を実施するために必要な情報と資料は、全ての納税者が必ず(一度は)持っているものである。
ところが、その情報と資料が常に十分揃うとは限らない、という部分で、我々は力が試されている。
2 情報と資料が出てこない 相続税編
この辺りの話は、相続税の業務で例示すると分かりやすい。
被相続人が亡くなって悲嘆にくれる親族たちが、葬儀・法要をやって、心を癒して、遺品を整理して・・・
おっと、税金のことがあったね。税理士を呼んでやってもらおう・・・
そして、税理士がやってきたときに、親族たちは初めて「申告に何が必要か」を知ることになる。
預金通帳と残高証明と、株と土地と葬式の費用と、クルマと個人事業と〇〇と・・・
遺言があっても初めて知ることばかりだし、遺言があっても理解できないことばかり。
まして、その遺言がない相続だと、何がどこにあるか「すべて1から調べる」ことになり、もうシッチャカメッチャカ。
その場面で税理士は、「コレとアレとソレが必要です、リストのものを用意して下さい」とお伝えする。
で、運がイイと、1ヶ月くらいするとすべての情報と資料が整理され、集められている。
ところが運が悪いと、待てど暮らせど情報は整理されない、資料は出てこない。
どうなっているのか聞いてみると、「銀行関係はお兄ちゃんに、不動産は母に任したんだけど・・・」と。
そのお兄ちゃんは、仕事が忙しくて銀行など行けないし、カアちゃんは毎日「権利証がない⁉」とか喚いてテンパっている。
というようなことで、情報と資料があればあっという間に申告できるものが、できない。
モタモタしている間に、10ヶ月の申告期限が迫ってくるのである。
3 税理士はじめ外部関係者がするべきこと
さて、相続税の申告に何が必要か、などはアチコチに書いてあるし、リストもすぐ作れる。
問題は必要な情報と資料を、以下に速やかに集めてもらうかという点だ。
ある程度情報と資料が集まれば、調査もできるし、質問や議論もできるが、それがないと何もできない。
上記2 の例で言えば、銀行関係の事務を職員や行政書士さんに協力してもらったり、お兄さんが会社を一日休めば銀行回りできる準備をすべきである。
不動産を任されたお母さんには、すぐ不動産屋さんや司法書士さんを紹介して、不慣れなお母さんの代わりにやったり、権利証が無いなら一緒に家探しをすればいい。
ほか、株式の整理も遺品整理も、いまはすぐ対処できる事業者などがたくさんいらっしゃる。
相続税の仕事を重ねて分かってきたのは、まず「情報と資料」集めで、税理士ほか外部関係者が「初動を失敗している」ことが多い。
逆に初動をしっかりして、早めに情報と資料の収集に取り掛かれば、全てがスムーズに回るし、揃わない場合でもこちらも「ご依頼者の弱点や状況」がすぐ把握できる。
そしてあらゆる仕事に共通することだが、ダラダラ引っ張ると、関係者みんなが余計なことを考えるしボンヤリしてくるし、その結果、争いの原因が増えていく。
遺産分割がまとまっていない事例などは、案外、初動がしっかりしていれば問題なく終わっていたものが、結構ある気がする。
相続では、依頼者はほぼ全員が、何もかも素人でいらっしゃるから、情報と資料が揃わないのは依頼者のせいではない。
それは税理士ほか、関与している外部関係者の段取りの問題であり、プロを自認するのであれば、最初に情報と資料収集の段取りという点からしっかり始めたいものだ。
明日は、法人の情報と資料、についてお話したいと思う。
岸野康之 拝(本日重量 87.0Kg 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
公立病院の繰入金論議(2)
公立病院の繰入金論議(1)
今日は「税理士の仕事 税務」を書こうと思っていたが、ふと新しい話題が湧いたので、こちらを優先することにした。
僕が尊敬している仕事仲間の方から、次のようなメールが来た。
これは、公立病院が地元自治体などから損失補填「的」にもらっている、繰入金に関する質問だ。
岸野さん、おつかれさまです。
(次の記事に関連する仕組みについて)もしご存じでしたらご教示ください。
公立病院への繰入金総額は8,083億円と総務省が答弁
安藤副会長が厚生労働委員会で公私の役割分担を質問
全日病の安藤高夫副会長(衆議院議員、自民党)は3月13日、衆院厚生労働委員会で、地域医療構想における公私の役割分担について質問した。
安藤副会長は2月27日の予算委員会分科会での質問に続いて公立に対する補助金の情報公開の状況、および繰入金の実態を質問した。
総務省自治財政局の沖部望審議官(公営企業担当)は、自治体から公立病院への補助金は公表が義務付けられており、地方公営企業決算状況調査により公表されていると説明。2017年度の地方独法を含めた繰入金の合計額(決算ベース)は8,083億円であることを明らかにした。また、内訳については救急医療に1,155億円、周産期医療に205億円であると述べた。
さて、この記事にある「公立病院への繰入金総額は8,083億円」について。
①公立病院が受けている補助金の総額は8,083億円で、
それ以外に国や自治体から受けている補助金はないと理解してよいのでしょうか?
記事を読むと、8,083億円は自治体(県および市区町村)からの分だけで、
他に国から受けるものもあるという気もしますが…。
②8,083億円がすべてだとした場合、
その補助金の負担割合は、国、県、市区町村で、それぞれだいたい何%なのでしょうか?
そもそもこの繰入金について負担割合が決まっているのでしょうか?
お忙しいところ恐れ入りますが、何かご存じのことがあればいつでも結構ですので、お教えください。
よろしくお願いいたします。
このような、ご質問のメールだった。
実は、自治体病院だの地方交付税だのは、稀に自治体消費税の業務する人を除くと、完全に税理士の範疇外だ。
僕は前職事務所から15年以上、自治体病院の仕事をしているが、当時の職場では「自治体病院」と聞くだけで職員たちが逃げていったものだ。
僕も最初はやりたくなかったが、税務にはない醍醐味がクセになり、独立後のいまも重要な業務・ライフワークとなっている。
民間人の立場で、公共の議論の真ん中に混ざって仕事をするというのは、とても面白いと思う。
そして、このいただいたご質問と記事は、日本の医療政策の根本的欠陥に関する命題を、常に秘めている。
次回は、上記のメールに向けた、僕の返信メールをご紹介したいと思う。
岸野康之 拝(本日重量 外出中のため未計量 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
税理士の仕事(6)医療のお客様、関与形態、特殊業務
当事務所は数人でワチャワチャ、大きい仕事はパートナー税理士とワチャワチャと、やっている。
医療のお客様がほとんどではあるが、他に個人のお客様もいるし、皆様それなりにバラエティに富んでいる。
1 当事務所の、お客様の種別
(1)医療法人や医療を行う法人
医療法人、医療をする一般社団法人は、当事務所で圧倒的トップシェア種別のお客様である。
(2)医療経営に密接な会社
いわゆるMS法人や、医療の美容部門などのお客様も結構いらっしゃる。
(3)スポーツ施設である法人
いまボクシングジム1件だが、実は医療と並んで、充実させたい部門である。
今後の秘かな目標でもある。
(4)相続や不動産売買など、突発事項が生じた個人
常にコンスタントに相続の相談、申告を行っている。
法人顧客のご家族の件から、飛び込みの個人さんまで様々だ。
(5)自営業者である個人、勤め人である個人
個人の確定申告は、流れでご依頼があった時は積極的にご一緒するようにしている。
それは報酬や事業としてではなく、この職業をやる限り、永遠に磨き続けるべき分野だからだ。
(6)自治体病院(地方公共団体)
開業して3年目あたりから、ちらほら自治体病院の仕事をするようになった。
勤務税理士時代の得意分野だったが、開業したらもうできない分野かな、と思っていた。
個人会計事務所で、地方公共団体と直接契約で病院業務をするのは楽しく、有難いことだ。
2 税理士業務の関与形態
種類別っぽくあげてみたが、その中でのお客様との関与の仕方、契約形態はもっと様々だ。
定価や価格表を付けている会計事務所もあるし、それはそれで明瞭で良いと思う。
当事務所には価格表はないが、税務申告書を作るほかに、次のような仕事の方法や動き方がある。
(1)毎月2回以上訪問、帳簿等の監査 + 報告、その他依頼を受けた調査など実施
(2)毎月1回訪問、帳簿等の監査 + 報告、その他依頼を受けた調査など実施
(3)年数回の帳簿監査または記帳作成、訪問 + 報告、その他依頼を受けた調査など実施
その頻度や内容はバラバラだが、お客様にお会いするときは、必ず報告書を持参する。
報告書は、会計ソフトからニューっと出てくるものでなく、Wordで手作りしている。
あと、役所での調べ事や株価・不動産査定など、依頼があるものは全部実施する。
よく「税理士の月次契約は、継続取引でイイよね」という人がいるが。
能力が高い大病院や、シビアな院長の月次顧問は、常にシビレっぱなしだ。
真剣にやっている限りは、これほど厳しく手間がかかる仕事はない。
対トップでは、面談や報告の一回一回が本番勝負。
相手も医療・経営のプロ、こちらに不足があるときの指摘は鋭いから、まったく気が抜けない。
また、大病院・グループ法人の顧問業務は キャストが多い。
僕は経理業務を中心に、できる限りあらゆるセクションの方々と仕事をする。
理事長、事務局(長)、経理部署、医療現場、場合によっては人事総務、医事課・・・
財務経理に留まらず、そのように動くのにはいくつか理由がある。
まず、財務を形成している人たちを知りたい、というのがある。
医事のことは医事課長に聞くのが一番だし、財務部では分からない契約のことは、総務に聞く。
人事で何かあるなら人事課、そこで分からないことは院長、看護部長・・・
財務というのは、そういう組織の集合体だから、組織の実態にも常に触れていたい。
それと副次的な理由として、組織の中を皆さんと動くことが、自ずと僕らのノウハウ蓄積になっていく。
同じ病院でもみんなやり方や組織形成が違い、中に入ると新しい発見ばかり。
そういうものが、次に行く医療機関で必ず役に立つのである。
ただ、他人様の組織の中を動く以上、「口が堅いこと」「人間関係への配慮」「自分との相性」など、気にすべきことは山ほどある。
口が滑ったら、相手の人間関係(理事長と総務課長が仲が悪い、みたいなもの)への配慮を欠いたら、あるいは最初からボクが嫌われたら。
何もかもが台無しになるかもしれないという、非常な緊張感で中に入っている。
ゴルゴ13でデューク東郷が「おれは1人の軍隊だ」と言っているが、一度その病院に入ると、まさにその気持ちで挑む気持ちになる。
ただ、さすがに本当の一人だと大組織を相手に長期戦はやれないし、ので、いくつかのお客様は、事務所の職員やパートナー税理士とのコンビネーションで、取り組んでいる。
僕は、税理士の月次業務で最大の魅力は、税務会計という重要業務を、一歩超えたところにあって。
お相手の規模に関わらず、自分も顧問先のチーム員の一人になった気持ちで、その組織の業務改善・業務円滑化に関われることだと思う。
そしてその動きが、「ボクはコンサルです」と言わずとも、常時コンサルテーションを提供する動きになっていると実感している。
3 そのほかの業務
まず、消費税の申告だけをお手伝いしている病院がある。
税務は他の税理士がいて、役員会議や、医局会議に出席するのがメインの病院もある。
スポット業務では、自治体間の負債に関する財務調整なども行う。
特に医療専門で仕事をしていて独特なのは、「出資持分の放棄」の業務だ。
相続税対策で実施する場合が大半だが、実は法人税を下げるためであったり、親族間争い回避のために実施する場合もある。
我ながら「何でも屋」だと思うが、医療機関という業種に限定しての「何でも」はなかなか楽しい。
最近は、全く違うタイプの税理士同士での連携も、少しずつできるようになってきたから、相談もお受けしやすい。
ということで、あまりまとまりがない文章だが、どんなお客さんがいるの?ということを書いてみた。
次回は、「税理士の税務」という、税理士の本丸について書いてみよう、かな。
岸野康之 拝(本日重量 85.8㎏(着衣)減らない・・ 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
税理士の仕事(5)現代の記帳 落とし穴
前回は、職業として税理士が行う「記帳代行」という仕事について、考えを述べてきた。
今日は、僕が最近実務で感じる「記帳」の落とし穴について、書いてみたい。
というのは、技術が進展した結果、思わぬところで「えっ?」という場面を見るようになったからである。
1 一見、美しい帳簿に見えてしまう
ところで、記帳が手書き伝票による技術職から、単なるデジタル入力作業となり。
データを落とし込む技術がある団体では、記帳すらせずに帳簿がある程度組成される。
すると、もはや人間が介在する余地は全く無く、業務が進んでいるように見える。
しかし、そこでまず盲点がある。
デジタルで作られた帳簿は、誰がどんな方法で作っても、そこそこ立派に見えるのだ。
手書きなら、未熟者が作ると未熟な帳簿になる。
しかし、デジタルの帳簿は誰が作って誤りがあっても、ボチボチ美しく見える。
数年前に、遠方のある病院に行った時、その団体では最初はきちっと経理されている、と思った。
ところがよく見ると、何もかもが誤った会計処理のオンパレードだった。
経理職員がいて歴史があって、組織が強固で、市販だが高価な会計ソフトが入っているから、つい油断するところだった。
そう、いまどきの会計ソフトなどは、誰がどんな風に作っても「何となくそれなり」に見えてしまうのが怖い。
2 実はちゃんと見ている人がいないかも
企業活動は絶えざるイレギュラーの積み重ねだから、帳簿も当然、イレギュラーが山ほど記録されている。
また、とりあえずデジタルで組成した帳簿には、スキャンミスや誤記、整理事項が山ほどある。
にもかかわらず、デジタルデータを正確に組み合わせることに専心していると、実は、帳簿を組成している人が「中身を見ていない」ことがある。
その帳簿を、課長や局長がOKして決裁印を押しているが、その管理職たちもジックリは見ない。
そうすると、僕のような外部の人間が、ノーチェック状態の帳簿を目にすることになる。
いや、もちろん帳簿のチェックも、僕らの大切な仕事なのだが。
驚くような誤字、誤記が満載の状態などにあると、真に見るべきところが見れなくなる。
伝票を手書きしたり、手で帳簿を記帳していると、そういう人が「おやっ?」と思うことが多くある。
毎日、何万という活字を入力していると、僅かな違和感に気付くものだ。
自社でも代行でも、とにかく気付く記帳者がいない、あるいはそういう目でチェックする人がいない、というのは怖いものがある。
3 そんなわけで、そこは会計事務所全般の「商機」であるはず
現状に対応できない事務所はあるし、クライアントの要望は多様化しており、会計事務所全体にストレスがかかる状況は、確かにある。
しかし、僕の目には、会計事務所は雑誌や外部の人が言うほど力を失っていないし、意外にAIに喰われていないと映る。
多くの事務所、税理士が上手にAI、フィンテック、DXなどを随所に取り込んでいるようだ。
こういう動きの中で良くないのは、「AIだー!いけー!」と、AIという波にやみくもに飛び込むことだと思う。
ある医療専門大手として有名な職員数百人の税理士法人が、久しぶりにホームページを見たら、AIのカタマリ事務所みたいになっていた。
実は、その事務所から当事務所に交代したお客様があり、確かにその法人は随所で自動化が進んでいた。
しかし、その税理士法人では、生身の人間がチェックしていないし、質問や助言も全然受け付けていなかった。
「ミスったらクライアントに怒られる、最低限の税務会計サービスだけ」を、徹底的に提供していたようだ。
本来は会計業務を省力した時間で、新しい付加価値を提供できるし、先方が組成した帳簿の詳細チェックはとても喜ばれる。
なのに、大手の〇〇さんともあろうものが、省力化だけに囚われて、本来の特殊技能まで失ったようだった。
省力化した結果、人件費を削るだけであれば、縮小均衡でいつの日か崩壊するだろう。
この流れは、会計事務所にとって「商機」だと思う。
もちろん、新しい流れをどんどん取り入れていく意味でも「商機」だ。
しかし僕は、この新しい流れに戸惑うクライアントたち、本質を見失っている会計事務所たちの狭間に、新しい仕事がたくさんあるように見える。
僕はいまは足元を固める時期で、大きく商機を見い出す時期にはないが。
大きい流れが来て、そこで進歩と混乱がある時期にこそ、そこ以外の場所に商機=勝機 があると思う。
岸野康之 拝(本日重量 外出先のため未計量 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
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