税理士 岸野康之 事務所のブログ 一覧
確定申告の季節だから(4)平均課税 ~所得が大変動したときに~
税理士の仕事は、いろいろ細かいことが多く、地味だ。
しかしどんな仕事でも、使えるワザが増えると面白くなる。
そして、そのワザをつかって勝ち星が増えると、楽しくてやめられなくなる。
「平均課税」は、7年前に初めて実務で使って以来、しばしば気持ちよく使うワザの一つだ。
1 平均課税の概要
世の中には、毎年の所得変動が大きい、または収入が不安定・突発的な人たちがいる。
所得が多いからといって、納税資金が豊富にあるわけではない。
収入が増え、経費が一緒に増え。
しかし税金は「累進税率だから、もっともっと増える」のだ。
だから急に所得が伸びると、所得の伸び以上に税額、税率が伸びることになる。
そういう激変を緩和してくれるのが、「平均課税」だ。
特別な計算式で、急激な所得の伸びを緩和し、本来より低い税率で所得税を計算できるのである。
思い当たる人は、ぜひ使って欲しいのだが、使える所得や業種は限られている。
2 平均課税の対象になる「変動所得」と「臨時所得」
(1)変動所得 ・・・事情により、年々大幅に変動する次の所得
(下記のとおり決まっている)
・漁獲もしくはのりの採取による所得
・はまち、まだい、ひらめ、かき、うなぎ、ほたて貝、真珠の養殖から生ずる所得
・原稿、作曲の報酬による所得
・著作権の使用料による所得
(2)臨時所得 ・・・数年分の収入が一括して支払われる次のような所得
(下記だけでなく、それに類するものも含まれる場合がある)
・スポーツ選手などの契約金で報酬2年分以上であるもの
・土地や建物を3年以上貸し付ける場合の礼金、返還不要の敷金、権利金など
・公共事業の事業所得の保証金など
まず上記(1)(2)のいずれかの所得であることが、前提条件である。
3 まとめと注意点
平均課税を使うと、税額が50万円→25万円、150万円→80万円などと、かなり低くなる。
(細かいことは、他の税理士のホームページで、丁寧に解説されている)
ただし、次の点に気を付けて欲しい。
(1)上記3の所得があれば、みんな使えるの?
変動所得の場合、少なくとも過去2年の平均額を超えている必要がある。
また、その年の「総所得」のうち、変動所得、臨時所得が20%以上あることも条件だ。
(2)養豚やサザエの養殖はどうなの?
→ 「変動所得」は、原則は上に書かれたもの以外、使えないのだが。
はまちと同種のブリがOKとか、サンゴ漁が裁決で認められたとか、様々な事例があるので税理士に相談して欲しい。
(3)講演や舞台演出も相当やっているのだが。
→ 「変動所得」では、原稿、作曲、著作権と限定されているので、講演や舞台演出は使えない。
(4)礼金、敷金、権利金、ではなく「アタマ金」と書いてあるが。
→ そんなの書いてるかい、と思うが、「臨時所得」は、返還不要の大きい収入であれば適用できる可能性がある。
こんな注意点があるが、これは自分で計算するのは非常に大変だし、判別が困難だ。
「お、もしかしたら」という人は、ぜひ近くの税理士に相談して欲しい。
僕も毎年「今年は平均課税、どうかな~」と計算して、バズると大変気持ちがいい。
さて、僕はこの週末が確定申告の山場である。
明日も、確定申告に関連したブログを書こうと思う。
岸野康之 拝(本日重量 85.9㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
確定申告の季節だから(3)保証債務の履行に係る譲渡所得の非課税
霞が関官僚については、いろいろ言う人もいるし、評価は様々だが。
僕は一点、昔から、彼らの「奉仕的な労働とその精神」には、目を見張るものがあると思っている。
ところで、つい先日、厚労省の幹部たちが深夜まで送別会をしたと、処分されているようだが。
「バレたら叩かれると分かり切った時期に、送別会を敢行するとは。
おそらく彼らには、早い時間に送別ができるような労働環境がないのでは。」
と考えると、どことなくかわいそうな感じがしてしまうのは、僕だけであろうか。
1 保証債務の履行に係る譲渡所得の非課税
さて、確定申告に絡んで、マニアックな話題を織り交ぜてみたい。
所得税法第64条では、「保証債務を履行するために、土地建物などを売った場合には、所得を無かったものとする特例」を定めている。
これは分かりやすく書くと。
・個人として、法人や個人の連帯保証をしてしまって。
・主債務者の法人や個人が、その債務を返済できなくなってしまって。
・泣く泣く保証人として、金融機関などに代わりに返済(代位弁済)することになり。
・その返済原資を作るために、泣く泣く自分の土地や建物などを売却して。
・保証した債務の支払(履行)のために財産を売って、「譲渡益」が出てしまった場合。
・その譲渡益に所得税をガッチリかけるのは可哀そうだから、「譲渡益はなかったことにしてあげる」。
こういう特例だ。つまり、
昔、1000万円で買った土地を、1億円の保証債務を弁済するために。
1億円で売却して、その1億円を銀行などに返済して、もうスッカラカン。
というときに、譲渡益9000万円について、20%1800万円の譲渡所得税を納めさせるのは、あまりに可哀そう。
なので「9000万円の譲渡益(譲渡所得)は、なかったことにしてあげる」という特例だ。
僕はちょうどいま、ある不動産の売却案件について、この特例を使った申告書を作り終えたところである。
2 この特例を使う上で、気を付けたいこと
(1)とにかく、気付くこと
税理士、ファイナンシャルプランナー、銀行員など、おカネ回りで生きる人は、この特例の存在を「知っていて欲しい」。
この特例を、使えるのに、使わないで譲渡所得の申告してしまっても、税務署は教えてくれない。
また、僕は税理士試験で「所得税法」を受験しているので、最初からこの条文の存在を知っているが。
実は、この特例を知らない税理士さんがいる、ということも知っている。
だから、おカネ回りで仕事をする人は、この存在をアタマの片隅に置いておいて欲しい。
(2)法律上の要件・・・次の三つを満たすこと
① 主債務者が「もう返済、むりっす」という状態になってから、債務の保証をしたのでないこと。
② 保証債務を履行するために、土地建物などを売っていること(売ったお金が、たまたま残っていたから弁済した、ではダメ)。
③ 履行した(代わりに支払った)債務の全部とか一部とかが、もう本来の主債務者から回収できなくなったこと。
そう、特に上記の③が非常に重要で。
代わりに返済したが、当の主債務者がまだ元気に商売してるとか、財産持っているとかの場合は、この特例は使わせないと。
国に税金を非課税をお願いする前に、その主債務者から、アナタが回収しなさい、と。
この、保証人が主債務者から回収する行為を「求償権を行使する」というのだが。
主債務者にはもう支払能力がない、回収できない、という明確な立証が必要なのである。
(3)パッと使えるものではないから、入念な下準備を
だから、僕が今回申告を請け負うときも、そうだったのだが。
前もって、「どの状態で譲渡したらこの特例を受けられるか」について、ものすごい回数の打合せ、確認をした。
何か一つでも要件を満たしていなかったら、場合によっては億単位の税金が変わってくることになる。
また、安易にこの特例を使っても要件を満たしきっておらず、裁決や裁判で「否認」されている事案も、多数ある。
ぜひ、この特例が視野に入ったら、十分な下準備をして欲しい。
ということで、個人確定申告の世界には、「たまにしか出会わないが、知らないと見過ごす」特例が結構ある。
次回も、そんな特例に焦点を当ててみたい。
岸野康之 拝(本日重量 85.1㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
確定申告の季節だから(2)コロナ延長、税収、自治体
今朝は近所のクリニックで、健診を受けてきた。
そこで内視鏡の医師に、いろいろ面白いことを聞いた。
・いまブームなのは、胃と食道の接合部のガンや炎症。
・ラクなのは「鼻から内視鏡」だが、食道や接合部関係をよく見れるのは圧倒的に「口から内視鏡」。
・内視鏡の操作は比較的誰でもできるが、そこで病気を発見したり検体採取などするのは、ウデが重要。
・バリウム検査で異変が出たら、別に内視鏡検査をしないといけないから、最初から内視鏡がいい。
などなど・・・詳しい人はみんな知っているのかな?
僕はたくさんの医師と話すけど、実は医療、臨床そのものの話はつまむ程度しかしない。
今度、あの先生にアノ症状を聞こう・・・とか思っても、結局会うと、別の話題になってしまうのだ。
さて、今日は確定申告シリーズで、コロナ絡みの話題を。
1 コロナ延長と税収
昨年に続き、今年もコロナによる確定申告期限の延長だが。
昨年は、「9割方の納税者から申告が出揃ったのを見届けて」から、正式な申告期限延長を決定した、と言われている。
その説明を聞いて、税収の裏付けがあってから初めて期限延長を決定したという、国のそれなりのしたたかさに感心したものだ。
でも、よくよく考えてみると。
源泉徴収制度で勤め人の給料から毎月天引きし、大半の税収は確保されているから、「9割の申告 = 9割の税収」ではないだろう。
還付の申告も非常に多い(高齢者の申告は、ほとんど還付)し、実は申告の数と税収はあまり関係ない、と気付いた。
そして案の定、今年の申告期限は最初から1ヶ月キレイに伸びた。
ほらやっぱり、申告件数と税収はあまり関係ないから、やればできるよね、と。
2 住民税を計算する自治体は
申告の期限が少し伸びたことは、全国民的にとても良いことだと思う。
年に一ヶ月だけの期間に、数百万人の人が詰めかける(送りつける)という制度が、この時代にあって、異様なことだったのでないか。
税務署の人事異動は7月だから、甚大な影響はなさそうだし、全国民的に3月半ばって、メチャクチャ忙しいしね。
それはそうと、実は困るのは地方自治体の税務部門かもしれない。
住民税は、1月提出の支払調書や3月提出の確定申告をもとに、4月辺りに計算して、6月~5月の一年間の税額を決定している。
長年、3月には出揃っているはずの申告書が一ヶ月伸びたら、住民税の計算事務も一ヶ月延びることになりそうだ。
しかも1700ある地方自治体は、1000人くらいの村から1300万人の東京都まで多様で、能力も、対応の仕方も全く違う。
住民税の計算事務が滞ったり、人事的に支障が出る自治体も出てくるのではないか。
と、一見心配そうな論調で書きつつ、これを機に自治体はもっとゴリゴリスリム化すればいい、くらいに思っているのだが。
3 法人などのコロナ延長の実際
さて、ところで法人などに適用される「コロナの影響による申告・納付期限の『個別』延長」は、今年はどうなっているのか。
『個別』延長とは、申告書の隅などにちょこっと「新型コロナウィルスによる申告・納付期限延長申請」と書けば、事実上無期限で申告・納付期限が延長される魔法の制度だ。
ただし、何でも延長OKなわけではなく、「コロナに起因した出来事で申告・納付ができない場合」が延長OKなのであって、「なんだよ、出せるじゃん」となったらそこで終了、という話もある。
この辺りは個別案件ベースで、法人も税理士も注意深く検討していくことになる。
ただ、いずれもにしても、この制度は今年も実施されており、いまも適用可能だ。
おそらく新型コロナは下火になっても、戦後70年続いた「定時出勤」という社会慣行が変化する中で、もう「テレワーク社会」「密回避社会」が完全に以前通りに戻ることはないだろう。
そういう点では、今後も『個別』延長が姿・形を変えながら、ある程度定着するのでないかと思うが、どうであろうか。
因みに昨年、僕は大きい医療法人で2件、小規模な社団法人で1件、それぞれ上記「個別延長」を実施した。
大きい2件は、「一ヶ月延ばしましょう」と申し合わせて延期したので、心穏やかに延長を実施できた。
しかし、1件の小規模な社団は、東京都の自粛要請に応じて営業休止をして。
「納税資金の不安」がある中で延長したので、「いつ申告納税できる日が来るだろうか」と、非常に心配した。
結果としては、この社団も営業再開後の事業が順調に回復して、半年遅れで申告・納付ができた。
しかし全国的には、まだ申告・納付ができていないで、『個別』延長の落としどころに悩む税理士・事業者が、いまも結構な数、いらっしゃるのでないかと思う。
役所嫌いの僕も、国税庁(税務署)という役所に対しては、日頃から一定の敬意を持っている。
なぜなら、国民から税金をキリとる(回収する)という、恨まれ、蔑まれ、時に国権を行使して戦う、大変な仕事をしているからだ。
そして、今回の国税庁のコロナ対応は、政府が布マスクとか卒業式中止に血道をあげる中で、するべき政策をしなやかに実施したと、高く評価している。
さて、次回も引き続き、確定申告関係のお話をして行きたいと思う。
岸野康之 拝(本日重量 85.0㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
確定申告の季節だから(1)徒然なるままに書いてみる
ブログのような自由な文章を書き始めると、つい目の前の業務と関係がない話題に、空の彼方に心が飛んでいく。
こういう現象のことを、僕は「心が彼岸に行く」と呼んでいる。
しかし現実は、確定申告期限が3月15日から4月15日に延長され、僕らの業界はまだ、その真っただ中にある。
(もう全件申告が終了している、勤勉な税理士の皆さんもいるようですが)
そんなわけで、心を現実に戻して、今日から個人確定申告の話題に戻ってみたい。
1 確定申告と還付申告
確定申告をした場合に、最初から明らかに税金が「還付」となる還付申告書の場合には、申告期限は「5年間」である。
だから法の理屈としては、還付であればそれほど焦る必要はない。
しかし、年によって「納付になるか、還付になるか」が、計算しないと分からない人たちも結構いる。
また、青色申告の事業所得者は、期限内申告していることが対外信用になっていたり、期限後申告が続くと「青色申告の取り消し」があったりする。
だから「還付っぽいから・・・」と先延ばしするのは、事情がある場合の保険として、期限内提出を目指して、税理士と一緒に頑張っていただきたい。
2 譲渡所得など 事前相談が大切
さて、土地、建物、自動車など大物を売却する人は、ぜひ「売却する前に」必ず税理士に相談して欲しい。
その理由は、次のとおりだ。
(1)年が明けてから「実は売ったんだよ」となると、資料集めから計算まで、大変バタバタする。
幸い、僕は飛び込みのお客様は多くないが、ときどき売却の内容をみて「どっひゃー」と驚くことがある。
モノによっては、売った時の契約書など以外に、売った土地の歴史をさかのぼらないといけないことなどもある。
100万、1000万のためだから、ぜひちょっとの税理士代金を惜しまず、ご相談いただきたい。
(2)その年に売らないほうがオトク、ということが。
不動産などの売却益にかかる税金は、5年未満しか持たずに売ると40%程度の税率のところ、5年以上所有して売ると20%程度の税率になる。
こういうことは調べればわかるが、売買の当事者になると、なかなか「待つ」という選択がアタマに浮かばない。
あと数ヶ月待てば100万円単位の税金が浮くかも、という類の気付きを得るためにも、「売る前に税理士」などに聞いてほしい。
(3)同じ売るでも仕込みが大事
いま、空き家となっている土地などを売ると、最大で600万円近くの税金が軽減される仕組みがある。
これだけ見るとオトクな感じだが、「国が定義する空き家」というのが大変複雑だ。
直前に住んでたのが誰だとか、ボロ空き家でも耐震基準を満たせとか、取り壊すならいつ頃こう壊せとか、とにかく複雑。
僕も先日一件扱ったが、その件ではちょっとタイミングがズレたら、税の軽減は取れない微妙さがある。
ぜひこの件に限らず、いろいろな仕込みを相談できる人を探してほしい。
(この、空家の特別控除は、別の機会にしっかり書いておきたいと思う)
3 確定申告をしていなかったら
先日、確定申告を数年間、提出していなかったという方からご相談を受けた。
結論としては、遡って全ての申告書を提出して納税もして、スッキリしていただいた。
いまもし、このブログを読んで「ドキっ」とした方がいたら、すぐご相談に来て欲しい。
一見の方などで、「これは税務署にバレるか、バレないか」という話をされる方がいる。
僕の職業的には、バレるかバレないかなど関係ない、できる限りちゃんとやるだけだ、が。
次のことは申し上げるようにしている。
(1)バレないとして、このあと何千日も「枕を高くして眠れるのか」どうか。
(2)あるときバレて、取引先からヤバいヤツだと思われることがある。
(3)ちゃんと申告している人にバカにされるかも。
この辺りのお話をすると、「そうだよねー」と言ってご了解されるか、「また考える」と仰って去るか、どちらかだ。
で、僕はそれほどドマジメではないが、助言したり申告書作ったりする僕自身もまた、「枕を高くして眠りたい」。
だから、あとで「言わなきゃよかった」ようなことは言わないし、バレたら不安になるようなものは残さない。
税務署というのは、あとでバレて税を納める人より、自分で申告してくれた人に優しい(傾向が、顕著にある)。
だから、なにかで不安な方は、ぜひ気を楽にしてご相談していただきたい。
あと2、3回、確定申告に関連するお話を書いてみたいと思う。
岸野康之 拝(本日重量 86.8㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
病院等の機能(5)医療政策上の官民イコールフッティング
前回まで、国の医療政策が引き金となって、各地の地域医療に甚大な影響があったことを、お話してきた。
一方で、ただ「量的に」医療供給を増やすばかりの戦後医療政策から、限られた財源と医療資源を、効率的に割り振るための、様々な試みもあった。
厚労省の医療政策には随所疑問があるが、必要に応じて進展した医療政策もあった。
1 国が考える必要な医療
医療法の歴史については、いずれ別のときにお話したいが。
平成19年の改正医療法は、医療供給の量的拡大を志向してきた我が国の医療制度にとって、一定のターニングポイントであったと思う。
まず、「5疾病5事業&在宅医療(当初は4疾病5事業)」という医療体制を中心とした医療計画の策定をスタートさせた。
【5疾病】
・がん
・脳卒中
・急性心筋梗塞
・糖尿病
・精神疾患(後に追加)
【5事業】
・救急医療
・災害時における医療
・へき地の医療
・周産期医療
・小児救急医療など
もちろん、このような題目を唱えたからといって、その分野の医療が強化されるわけではない。
あくまで、その分野の医師が増えたり、医療体制が強化されなければ、こんな医療計画は絵に描いた餅である。
それでも、僕のような事務屋は、これを見て「ああ、国として必要な医療、これから求められる医療はこの辺なのか」と、目に見えて分かる。
そういうことを、医療目線でなく、政策目線で示したという点は、非常に分かりやすくなっていると思う。
実際に、特に5事業については、その5事業への取り組みを評価する税制も誕生し、医療会計を扱う僕ら会計人の重要テーマになった。
2 官民のイコールフッティング
ところで、日本の医療制度は、誰かが取り決めたわけでもなく、長らく次のようにジャンル分けされてきた。
・国公立と公的医療機関 非課税+補助金あり
・(民間)医療法人 課税+補助金なし
同じような質の医療を低コストで提供していても、「公」の名があるだけで、税制・資金で優遇されてきていたのだ。
しかし、公的役割を担って地域医療を守ってきた民間医療機関、逆に地域医療への対応力を喪失している国公立病院など、内実は様々だ。
そういうことが、目に見えて明らかになったのが、その平成16年~20年前後の医療制度改正が相次いだ時期である。
そこで、医療機能が低下した国公立病院に構造改革を促し、優れた民間医療法人などは税制面、補助金等で優遇する動きが制度化されていった。
折しも、政治的にはポスト小泉政権の流れで行財政改革が引き続いてきた時期であり、経済的にはリーマンショック前後であった。
この一連の動きは、諸分野において「官民のイコールフッティング」と呼ばれている。
3 公的医療をめぐる動き
民間の医療法人制度については、以前ブログで書いてきたように、平成19年から「社会医療法人制度」が始まった。
従前、医療法人に収益事業を解禁した「特別医療法人」という冴えない、不人気な法人制度があったが、これを廃止・代替する形で社会医療法人が誕生した。
法令が発表されるまで、「税率は22%軽減税率でないか」と大した期待をされていなかったが、出てみれば「(ほぼ)完全非課税」の内容だったので、我々の業界は大騒ぎになったものだ。
社会医療法人の詳細は、以前ブログで数回書いたので割愛するが、現在300法人超が非課税団体として、公益性が高い医療を担っている。
一方、その医療崩壊の流れの中で経営難に陥る公立病院が続出、平成19年前後から公立病院改革が進展した。
これは厚労省による医療制度の改革というより、総務省主導による行財政改革の一環であり、小泉改革による市町村合併やリーマン後の税収難とも大いに関係している。
この改革の流れは今もまだ着々と進んでおり、僕も現在、いくつかの公立病院で多様な業務に携わっている。
公立病院のこうした動きは、超簡単にいうと民営化といえるのだが、単純な民営化ではない。
微妙に企業色を入れる方法、いわゆる独立行政法人化、公設民営による民営委託、自治体間紛争の解決など、様々な手法がある。
いずれにしても、戦後の議会民主主義を基礎とした「病院ー議会ー行政」という三者関係による公立病院経営が制度疲労を起こしており、地域ごとに最適な形に是正する必要があったのである。
公立病院改革については、残念だが実務をしたことがない「評論家」の方々が、おかしな意見でミスリードする場面をよく見かける。
僕自身が現場で格闘してきた実務経験や制度的所見を、いずれブログで、連続的に書いてみたいと思う。
ともかく戦後の医療体制(医療秩序)を、国は、自ら崩すとともに、公的医療における官・民の役割の見直しを推し進めたのである。
良くても悪くても事態は大きく動き、15年を経て今日に至っている。
この後は、ここ数年の医療制度について見ていきたいと思う。
しかし、その話をするためには、「医療法改正」「診療報酬改正」「介護保険制度」についての、基本的な流れを押さえていかねばならない。
そこで次回からは、医療法の成立と医療法改正について、僕自身の復習を兼ねてお話してみたい。
・・・と考えたが、まだ確定申告のお客様が数件残っている(期日4月15日)ので、明日から少し、「個人確定申告」の話題にしたいと思う。
岸野康之 拝(本日重量 87.1㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
→ 週末に、リバウンドする傾向にある・・・
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