税理士 岸野康之 事務所のブログ 一覧
病院の事務局 (3)公立病院 事務局に必要な「それなりのもの」
さて昨日は、公立病院で「赤字」に直面した事務局について書いたところで終えた。
今日は、その続きで。
4 業績を上げるのは医療職
というわけで、事務局(事務長)は赤字を解消しようと思うのだが、事務局自らが収益を生み出すことはできない。
当然、医療機関では、医師や看護師など医療職の働きが収益を生み、業績を上げるのである。
さて、そこまで分かったところで。
「どうしたら医療職の人たちに、業績を上げてもらうことができるのか。」
皆さん、この悩みに直面することとなる。
僕は、この悩みを持つ多くの事務職(事務長)たちと、長年一緒に仕事をしてきた。
そこで、アクションの動きができない人たちは、悩みに悩んで、ふさぎ込んでしまう。
しかし、そこでアクションして医療職に働きかけた人たちも、かなりの割合で「返り討ち」にあう。
なぜ、返り討ちなのか。
医師、看護師ほかプロ医療職の現場人たちは、医療行為の責任が問われる日々の中で、業績も意識しないといけないのである。
そんな彼らが、異動で来て「議員や上司に怒られたくない」のが見え見えの職員の願いなど、簡単に聞き入れるわけがない。
もし、資格があるプロの医療職たちに伝えたいことがあるのなら、こちらも「それなりのモノ」が必要だ。
僕自身も大した力はないなりに、一事務屋として、「それなりのモノ」の必要性を、日々痛感している。
「それなりのモノ」については、10年以上前の勤務時代に、日本経済新聞に寄稿した記事に書いたことがある。
以下、ご笑覧いただきたい。
そう、医師はじめ医療職の人たちというのは、要するに「専門家」だ。
医療機関というのは、実は、国家資格の有資格者である、専門家たちで形成された集団なのである。
その中では、専門的な蓄積がない人の言葉は、なかなか相手に響かない。
こちら側も、それなりの蓄積を持って対峙して、初めて受け入れ合えるものがある。
そういう意味では、たまたま病院にきた事務局の皆さんが、1、2年で成果を出せと言うには、ちょっと厳しい世界であるといえる。
というわけで、事務局がプロ医療職を使役して業績を上げるのは、本当に大変なことだ。
これが事務局を苦しめる、大きな一要素になっている。
と、残る一つは、また明日書きたいと思う。
(つい、各項目が長くなってしまって 汗)
岸野康之 拝(本日重量 84.3㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
病院の事務局 (2)公立病院 事務局の苦悩
僕は、数々の公立(都道府県・市町村立)病院にどっぷり入る中で、「何が事務局を苦しくさせるのか」を学んできた。
それは、だいたい次の5点に集約されるのでないか、と思うに至っている。
1 見下ろされる立場
地方に行けば行くほど、公務員そのものが地元の出世頭であり、地元ピラミッドの上層階級だ。
そして公務員は「年功序列」と呼ばれ、年齢や勤続年数で出世や給料が決まる、安定したピラミッド社会でもある。
ところが病院には、医師、看護師、薬剤師などを上位とした、通常の公務員社会と違う、異次元のピラミッドが存在する。
「医療資格のピラミッド社会」の中で、医療資格がない公務員である事務局員は、昨日までと逆の立場を味わうことになる。
医師たちに呼びつけられ、看護師たちに怒られ、市民(患者)の厳しい目線にさらされるという、想像しなかった展開に参ってしまう。
2 軽く見える責任
これまで、公立病院の組織改革に関わる中で、1,000人を超える医療職、事務職の人たちと、サシや少数でヒアリングを実施してきた。
その中で、多くの病院で医療職の皆さんが、口をそろえて次のように言う。
「医療行為の責任も業績の責任も、すべて自分(医療職)たちが負い、事務局は次の異動で帰るまで何もしない」
別に、人事異動に従って異動する事務局の皆さんが、何も悪いわけではない。
ただ、現場の医療人たちに「そう映ってしまう」ことが多いのは確かで、僕にもそう映ることは多い。
この意識や負担のギャップが、事務局にプレッシャーとしてのしかかってくるのである。
3 赤字は悪
役所というのは、一度決まった予算を適正に執行(キレイに使い切る)のが大切な社会だ。
役所の中では、黒字が善とか、赤字が悪とかいう考え方は、利益体質の民間人の発想だと考えられがちである。
予算不足になれば(怒られながら)補正予算を編成すれば済む、というところがあるし。
逆に予算が余ると、財政課や他部署から、見通しの甘さを指摘される社会でもある。
ところが病院というのは、公立病院でも民間病院でも「基本的に赤字は悪」で、一応収益性が問われる。
診療報酬を稼いでその中で経営してくれ、というごく当たり前の話なのだ。
が、これが公共の方々は慣れない。
しかも、黒字の公立病院など稀な存在で、たいてい赤字だ。
にも関わらず、知事や市長、議会などは病院の赤字を見ると、「事務局は何をしているのか!」と責め立てるのである。
そして事務局員たちは、「なぜ赤字か」の原因分析(言い訳)の書類を、山ほど作成することとなる。
その結果、次に・・・
と、残る2項目は時間の関係で、また明日書いてみることにしたい。
岸野康之 拝(本日重量 85.0㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
病院の事務局(1)公務員人事と公立病院
最初に書いておくが、熱心で能力ある公立病院事務局はたくさんあるし、僕も病院で素晴らしい行政マンたちに、たくさん出会ってきた。
さて、以前、病床300床程度の市立病院に通いはじめた頃のことである。
総務・経理担当の事務局に案内されて、中に入ってみると。
総務課員、経理課員として働いている人のうち、半分以上の人の「目の焦点」が少しおかしい感じがする。
覇気も意欲も、全く感じられず、生命感に乏しい人の群れのように見えた。
しかし実は、この感じは初めてではない。何度か経験している・・・
1 公務員の人事
そう、試験合格して地方公務員として入庁した皆さんにとって、「どこに配置されるか」は重要な問題である。
公務員の人事というのは、様々な例外はあるようだが、通常は2年に一度くらいの頻度で配置換えがある。
我々がイメージしやすいのは、住民票や印鑑証明を取るような「役所の窓口」だ。
しかし役所の仕事というのは、目に見える窓口仕事以外にも、デスクワークや現場作業など、本当に多岐にわたる。
昨日まで印鑑証明を発行していた人が、翌日からごみ処理場の伝票整理になったり。
支局の固定資産税班で電話連絡担当をしていたら、次は市長の秘書課に配属されたり。
皆さんの話を聞いていると、異動前後の配置に、全く脈絡がない場合が多いようだ。
もちろん愛する街のため、社会正義のために就職された諸氏らは、当然多い。
一方で「安定した処遇」を第一義に、公務員の道を選んだ人もまた、非常に多い。
ともかく、できればイキイキ働ける部署が、悪くても我慢できる部署に配置されたい。
2 病院事務局という配置
繰り返し書いておくが、熱心で能力ある公立病院事務局はたくさんあるし、僕も病院で素晴らしい行政マンたちに、たくさん出会ってきた。
ただ、病院への異動は「残念」と位置付けられている自治体はやはり多く、僕は現場での触れ合いで、よくそれを体感してきた。
昔通ったある公立病院では、病院の中心にいるべき事務局三人組が、常に気配を消している。
打ち合わせが終ると、フワッと三人とも姿が見えなくなり、医療者たちも事務局の動きが読めないという、不思議な状況だ。
なぜ、そんなことになっているのか、だんだん打ち解けてきて、よく分かった。
とにかく病院にいるだけで苦痛で、「早く本庁に戻りたい」一心で生活している、というのである。
医療者と顔を合わせたくないから、事務室から外に出るのは必要最低限の動きだけ。
病院に配置された彼らは、本庁に戻る日まで耐えるべく、よく三人で酒場で励まし合っていたそうだ。
僕はこの病院に、「組織改革をしてきなさい」と、送り込まれたのだが。
この三人組にしてみたら、改革などして人事慣行が変わり、本庁帰還が延びるのが一番の恐怖だ。
結局、彼らは経営改革に大反対をし続けて、経営が悪化しきった頃に、本庁に帰っていった。
こんな公立病院の事務局風景が、あちこちにあるわけだが。
いったいなぜ、公立病院の事務局がつらいのか。
次回は、少し掘り下げてみたいと思う。
岸野康之 拝(本日重量 86.1㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
その記事の向こう側にあるべきもの
4月3日(土)の日経新聞一面トップは、次のような見出しだった。
「民間病院、コロナ対応遅れ 中規模施設、4割が受け入れず」
国や自治体の受け入れ要請に、中規模民間病院のうち4割が対応していない、という論調だ。
以前書いたが、我が国で「救急告示病院」として救急患者の受け入れる、と標榜しているのはベッドがある8000以上の病院のうち、半数以下だ。
病院は、慈愛の精神であらゆる患者を受け入れると思われがちだが、どれだけ慈愛の精神をもってしても、受ける体制がない病院が大半を占めている。
外来機能がない回復期リハビリの病院、長期入院専門の病院、精神科の病院など・・・
それを思うと、4割が受け入れないというのは肌感覚として納得の数値であり、「それで、なにか?」という感じがする。
それと、この新聞記事にはもう一つ、見当違いな論調があった。
「経営余力に乏しい小規模病院が、受け入れに及び腰とされてきたが、200床以上の病院でも民間の協力が進んでいない実態が浮き彫りになった」
病院に限らずあらゆる業界で、小規模な団体になるほど「総合デパート」はできない。
経営余力の有無に関係なく、規模が小さくなるほど、できることの選択肢は少なくなるのは当然である。
では、小規模でもお金があって、医師と看護師が充足していればコロナ患者の対応ができるのか?
経営余力があるところから、順々にコロナ患者を受け入れれば良いのか?
と、様々な疑問ばかりが次々浮かんでくる。
まずそもそも、民間病院というのは驚くほど補助金や公的援助がない、ただの「民間企業」である。
国や自治体の病院は、補助金や非課税があるから、理論的には、民間より人員や設備の確保ができて当り前である。
論調としては、「民間でやってないところ」を探すより、『公共なのにまだやってないところ、できない理由』を徹底して探すべきである。
この辺りの話は、どこかで拾ってきた単純な病床数や経営余力で、再構成できる問題ではない。
医師、看護師、リハスタッフは年々順調に増えているのに、なぜ勤務医の苛酷労働は無くならないのか。
なぜ救急施設は減少していくのか、なぜお産ができる街が消滅していくのか。
ベッドがある病院は減るのに、ベッドがない、救急など受けられないクリニックが順調に増えるのはなぜか。
そもそも日本中に「空床が多い自治体病院がたくさんある」のに、なぜベッドが無いといわれているのか。
コロナ軽症、無症状の患者をなぜ「ガチガチの感染症病床に入れるべき」とする議論が、当り前の論調になっているのか。
こうした根本的な議論や経過が一切無視され、おそらくどこかから垂れ流れてきた情報が、そのまま記事になっていた。
ここ数年の新聞の専門記事の劣化は、かなり目を覆う状況にある。
お勉強が飛び切りできる人たちが記者になっているから、確かに、作文は上手だ。
しかし、「なぜそうなっているのか」という、その記事の向こう側にあるべきものが、全く記されていない。
ネット情報が氾濫しているから、新聞を売るのも大変な時代なのは確かだ。
しかし、そんな時代だからこそ、浮かんでは消えていくネットメディアにはできない新聞のあり方があるはずだ。
もっとも、それは新聞だけの話ではない。
我々もまた、自分が記している活字の「向こう側にあるべきもの」を深く洞察して、日々を過ごさねばならないのだろう。
岸野康之 拝(本日重量 86.3㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣)) → 一進一退が続く。。。
確定申告の季節だから(5)医師の確定申告 おさらい
いま、日本には医師が32.7万人、歯科医師が10.5万人(平成30年調べ)いる。
このうちの全員とはいわず、そこそこの数の人たちが確定申告をしていると思われる。
今回、この機会に医師に向けて、確定申告についておさらいをしてみよう。
1 確定申告が必要な人
(1)事業所得や不動産所得がある人(開業医など)
(2)給与所得者で、給与の年間収入が2000万円を超える人
(3)給与の支払を受けていて、他に給与・退職所得以外の所得が20万円を超える人
(4)同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受取っている人
(5)退職所得の税額が源泉徴収された金額より多くなる人
(6)その他・・・
例えば「収入と所得」「支出と経費」など、ちょっと言葉が違うだけで上記(1)~(6)の扱いが変わってくる。
その辺りを思うと、もしかしたら・・・という人は、申告が必要かどうかの判定を、税理士にしてもらった方がいい。
2 確定申告が必要ではないが、した方がいい人
(1)年の中途で退職して、その後、年末調整を受けていない人
(2)住宅ローン控除を初めて受けようとする人
(3)非常勤等で、複数の職場で給与を受けている人
(4)多額の医療費を支出した人(医療費控除)
(5)ふるさと納税ほか、特定の寄付をした人
(6)年末調整に載せ損ねた項目がある人
この「した方がいい人」は、申告することで納める税金が減ったり、源泉徴収された税金が還付されたりする。
還付を受けたい人の申告期限は、5年間と長いので、「あ、去年もしかしたら・・・」と思い出した人なども、すぐ申告することを検討されたい。
3 特に医師が気を付けたいこと
(1)勤務医が非常勤バイトをしていれば、還付になる場合が多い。
そう、バイトや副業の給料は、普通より高額の源泉徴収で税金が引かれているので、勤務医が他に1、2か所バイトをしている場合は、還付を検討されると良い。
(2)給料を「事業所得」で申告しないこと。
「勤務する病院が『給料でなく報酬で支給』してくれたら、事業所得で確定申告していいですか」
こういう相談を、昔からチョコチョコお聞きする。
他のすでにそうしている医師から聞く、ということが多いようだ。
事業所得として申告すると、
「飲み代ほか、経費を入れられるので税金が少なくなる」
「事業の赤字を、他のところの給与所得などと相殺(して還付が)できる」
など、一見メリットがある。
しかし、事業と呼ぶべき実態がなければ税務署に否認される。
税務署のシステムは細かいので、おかしいものはアラートに引っかかってくる。
「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」
この事業の定義に該当しないものは、事業所得には該当しないということを、確認していただきたい。
(3)ある年収を超えると制限がかかる仕組み
・住宅ローン控除は、合計所得金額が3000万円を超えると使えない。
・基礎控除は、合計所得金額が2500万円を超えると使えない。
・配偶者控除は、納税者本人の合計所得金額が1000万円を超えると使えない。
・「給与所得控除」は、給与収入が850万円を超えると195万円定額となる。
他にも年収が1000万円を超えると〇〇手当が出ないとか、△△無償化が使えないとか、税制以外にも収入でキャップがかかる制度はいろいろある。
(4)基本的な話、日本の税制は所得がある個人に厳しい
そもそも、実は会社など法人に係る「法人税」は、企業の国際競争力確保のために、年々税率が下がってきている。それに対して個人所得税は、税率も様々な仕組みも、年々上がっていく一方だ。
国は、法人を優遇して個人に厳しくしてきている。
特に年収1000万円近くから上の、比較的富裕層には年々厳しさが増している。
「なぜ個人ばかり厳しいのか?」は考えても仕方がないことで。
個人での重税感に不満があるなら、次のいずれかで対処するしかないだろう。
・それを超えるほど稼ぐか
・お得な(重税感を感じない)水準まで収入を下げるか
・法人代表となって税の工夫の余地を広げるか
・その他
と、医師の皆さんに気にして欲しいことを、ざっと書いてみた。
勤務医である医師について、「医師だからこの節税が使える」という手が、そうあるわけではない。
しかし医師は税率が高い人が多いから、一つ一つの節税の効き方が、全然違う。
同じ、10万円の所得を減らした場合。
年収200万円の人なら5,000円の減税効果だが、年収2000万円の人なら40,000円の減税効果だ。
ぜひ、正攻法でコツコツ、できる節税策をしっかり取っていただきたいと思う。
岸野康之 拝(本日重量 86.9㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
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