税理士 岸野康之 事務所

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医師と税金(10)個人に関わる10の所得 ②残る9つの所得とは

昨日、八王子の街を歩いていたら、カリスマ(元?)ホストの「Roland様」の銅像を見つけた。

 

その銅像には

「世の中には、二種類の男しかいない。オレと、オレ以外だ」

と、刻まれている。

 

一生に一度くらい、そんなことを言ってみたいものだ。

などと思いながら、つい銅像と一緒に「自撮り」してしまった。

 

 

さて、今日は個人にかかる10種類の税金、残る9種類の紹介をしていこう。

 

 

2 その他の9種類の所得

 

(1)事業所得

 

開業医をはじめとする、あらゆる「個人」事業主の所得だ。

「株式会社・・・の社長」は法人の社長なので、個人事業主とは言わない。

 

勤務医やサラリーマンであっても、例えば別に事業もやっているなら、事業所得を得ることもできる。

また、その方が税制上有利なこともいろいろある。

 

事業所得は「開業医の主要論点」なので、改めてじっくり書いていきたい。

 

(2)不動産所得

 

不動産所得は、「不動産を貸して、その賃料がある」人のための項目だ。

 

アパートやマンションを賃貸している地主さんなどは、もちろん該当するが。

たまたま空いている土地をお隣さんに〇万円で貸しているとか、一年の転勤中に家を親戚に〇万円で貸しているとか、そういうものも立派な不動産所得になる。

 

開業医、勤務医いずれも不動産所得を得ている人は多い。

 

(3)山林所得

 

木を切って売った人は山林所得の申告をするが、僕は申告実務をしたことはない。

「誰かいるー?」とか思ってしまうが、実は令和元年は全国で4,200人が申告しているらしく、決して無視できない存在のようだ。

 

(4)利子所得

 

日常的には、利子は源泉徴収されて終わりなのであまり注目されないが、利子も立派な所得である。

 

(5)配当所得

 

企業から配当を受けた場合に申告したり、源泉徴収される所得である。

 

医師会出資から受け取る1,000円くらいの配当も配当所得。

上場株式を1千万円有していて、数十万円を受け取るのも配当所得。

 

配当所得は「申告すべきかどうか?」「え、それも配当なの?」ということが多いので、よく税理士やFPに相談して欲しい。

 

因みに医療法人は、一応医療法で「配当禁止」となっているが、税法上の配当とは異なる解釈が多いので、医療関係者はこちらも要注意だ。

 

 

(6)譲渡所得

 

不動産を、クルマを、株を、売った、その譲渡による「利益」に譲渡所得が課税される。

 

譲渡所得だけで何十冊も書籍が出ている、非常に複雑で幅広い論点だが。

ここでは一点だけ、書いておきたい。

 

所得税の税率は5%~45%と幅広く、住民税を合わせた最高税率は約55%と高率だ。

 

しかし上場株式等の売却益、配当課税の税率は、概ね一律20%(住民税含む)。

5年以上所有した不動産の売却益も、概ね一律20%(住民税含む)。

 

働いて得た所得にかかる税金より、モノを売った利ザヤの方が、税金が少ないのだ。

ある程度、資産を有する人たちは、この税率の差を長い目で見て活用している。

 

この「譲渡」に対して無防備だと、思わぬところで損をするので、好きでも嫌いでも「なるほどー」と思っておいて欲しい。

 

(7)退職所得

 

退職金は、大きい意味では給料の一部分と言えるが、給与と大きく違うのが「税金」だ

 

簡単に言うと、同じ金額を給与でもらうよりも、退職金でもらった方が、圧倒的に税金が少ない。

退職金に税金がまったくかからない勤め人も、結構多い。

 

様々な病院を出入りする中で、「一般職員の退職金制度はあるが、医師の退職金制度はマチマチ」という状況をよく見る

医師の雇用情勢は流動的だから仕方ない面はあるが、勤務医はその辺りを了解して、資産の蓄積・運用を考えていただきたい

 

(8)一時所得

 

生命保険の満期金や競馬のアタリ馬券、そのほか一時的に得た所得に課される税金だ。

他にも細かくいろいろあるが、とりあえずお金を得たら「これ、税金大丈夫か?」と確認して欲しい。

 

(9)雑所得

 

10種類目の所得が雑所得で、①年金②そのほか様々な所得 が該当する。

 

まず、①年金について一言書いておくと、公的年金や私的な保険年金、また複雑な受給開始年齢と金額の仕組みなど、いろいろ論点がある。

100歳まで生きる時代なので、よく研究しておいていただきたい。

 

そして②そのほか様々な所得は、実は勤務医には縁深い話である

雑所得を有している勤務医は、とても多い。

 

雑所得には、それなりの申告の仕方がある。

 

 

 

今日は10の所得を紹介したところで終わりとするけれど、次回は、

「勤務医と事業所得・雑所得」という論点でお話してみたい。

 

岸野康之 拝(本日重量  86.1㎏(半裸)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))

医師と税金(9)個人に関わる10の所得 ①給与所得者

2年前にようやく禁煙に成功し、ウソのようにタバコを吸わなくなった。

いまや、飲食店や喫煙所付近で「副流煙」の真ん中にいても、何とも思わない。

 

ところが、ときどき危ないのは、「意外な時、チラリと見えたとき」だ。

 

例えば、人と向かい合ってお話しているときに。

正面の人が下を向いたとき、胸ポケットからタバコの箱が「チラリ」と見えた時。

無性に欲しくなってしまう、つい「一本いただけませんか」と言いそうだ。

 

そう、人は「不意打ち」「チラリズム」に弱い。

きっと何事も、そういうところがあるのだろう。

 

 

さて、開業医、勤務医というテーマでしばしば原稿を書いているが、そもそも「個人の税金」の全体像を書いていなかった。

今回は、開業医、勤務医を含めた全国民が関わる「所得税」には、10種類の所得があり、個人がお金を得たら、どれかに当てはまってくる。

 

今回はこの10の所得と、その他の大切なことを記すので、ぜひ読んでいただきたい。

 

まず第一弾の今日は、給与所得から。

 

1 給与所得

 

(1)確定申告をする必要がある給与所得者

 

国民中、給与所得者は圧倒的に多く、副業を有する人を含めると5000万人を超える。

そのため、給与所得だけは特筆しておく。

 

ほとんどの給与所得者は、年末調整をすれば特に申告をしないでいい。

いわゆるサラリーマンは、これにあたる。

 

しかし、次の人は確定申告が必要だ。

 

①給与の年間収入が2000万円を超える人

②給与以外の所得合計が20万円を超える人

③その他

 

見ただけで、まず勤務医などは①~③いずれかの対象者が、結構いることが分かる。

いまは該当しなくても、いずれ該当する勤務医が大半だ。

 

 

(2)義務ではないが、確定申告したほうが良い給与所得者

 

一方、義務では無くても、次のような人は確定申告をした方がいい(すべきである)。

 

①医療費が10万円くらいになり「医療費控除を受けたい人」

②多額の寄付金等を支出する人(ものによっては、申告不要だが)

③職場で年末調整はしていても、それ以外に「税金の還付」が受けられる可能性がある人

 

 

実は、結構「自分でできるから、自分でやるよ」と言い、結局、申告する機を逃している勤務医は多い。

申告して還付を受けるより「自分で働いた方が効率よく稼げる」、という医師もいた。

 

しかし、「還付を受けるための申告」は、実は毎年3月15日(コロナ期は4月)の申告期限と関係なく、5年間の間、申告して還付を受けることができる。

還付申告の期限は、非常に長いのだ。

 

2,3年分まとめて申告することもできるので、「あ、もしかしたら」という方は、税理士にすぐ相談して欲しい。

 

 

僕の事務所でも、勤務医である個人の確定申告を、結構お受けしている。

複雑な申告でなくても、「頼んだ方が早いし、色々教えてもらって勉強になる」という医師は、とても多い。

 

勤務医は、普通のサラリーマンより所得額や所得を得る機会が格段に多く、キャリアの変動も激しい。

だから、仲良しの税理士を作って、いろいろ聞き倒し、ぜひ損をしないように税金や所得というものにしっかりアンテナを張って欲しいと思う。

 

次回は所得税、その他の9種類の所得をお話したい。

 

岸野康之 拝(本日重量  87.2㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))

医療と寄付金(5)地方公共団体と寄付講座

昨日、大企業の賃上げ記事の話に言及したが、その記事の流れで「日本型雇用システムの限界」が強調されていた。

 

これは数十年続いている議論で、いまだから限界、という話ではない。

 

僕の実感としては、小規模企業の世界やIT系など新興産業の世界では、すでに旧来の日本型雇用システムは相当変化してきている。

銀行なども、すでに50歳前定年制と言われるほど、雇用システムを堅持しつつ内情はシビアだ(銀行は他に問題が山ほどある)。

 

変わらないのは、存外に強い重厚長大産業、国策に近い産業、そして公務員である。

 

現在、国の出方やコロナウィルスそのものの話で持ちきりだが、その足元で動く経済事象を冷静に見直すには、格好の時期ともいえる。

ぜひ、日本型システムで真に改革すべきものは何か、その改革により何を作り出すのか、議論が進むことを願いたい。

 

 

今日は、国、自治体、そして寄付講座について見ていこう。

 

 

1 地方公共団体から国等(国立大学法人などを含む)への寄付、かつての取扱い

 

かつては、地方公共団体が、国や国立大学法人に寄付をすることは、「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」によって禁じられていた。

 

確かに民間人の感覚でいえば、我々が地元に納めた地方税の税収を、国に寄付するという、非常にオカシイ状況に見える。

僕の最初にこの辺りの話を聞いたときは、「官官接待(〇パンしゃぶしゃぶ)」などを思い出したものだ。

 

実際に、国が地方に「寄付をさせる」的な地位の乱用や、逆に地方が国の事業誘致のために国に寄付するというような、公共体同士の寄付が頻発したために、財政規律確保の観点から、その寄付を禁ずる法律ができたと言われている。

 

 

2 東北における医学部寄付講座に関する訴訟

 

ところで、平成16年に釜石市、石巻市、塩釜市が(国立大学法人である)東北大学の医局や教授に寄付をしていたことが違法だとして、オンブズマンから住民訴訟が起こされた。

 

当時、僕は1年間、コンサル一年生として宮城県内の病院再生事案に取り掛かっていたので、本件訴訟の行方は大変気になっていた。

(なぜ会計事務所に入った税理士受験生が、病院コンサルを!? と、大変疑問に思いながらも、意外にハマり込んでいた)

 

この訴訟の経過で驚いたのは、次の点であった。

 

・各市が「派遣医師の確保のために寄付をしている」と明言していること

・そして大学医局側も「それを承知して寄付金を受領していた」としていること

 

実は当時、医師確保の寄付講座というと、公共・民間の別を問わず、どこか「後ろ暗い」感じのイメージが持たれていた。

そのイメージ感は、寄付というより袖の下に近い感覚があったのかもしれない。

 

しかしながら、本件訴訟は一審は原告勝訴であったものの、高裁は原告の請求を退けた。

 

これは、法律云々も去ることながら、結局、地方の医師確保事情がそれだけ厳しい状況にあることを示している。

そして、裁判所が「その寄付金は、医師を派遣してもらうための対価だよね」と認めたという、何だか不思議な感覚も残った。

 

 

3 禁止条文の廃止 ~寄付が、原則可能に~

 

結局、実態的には全国で行われていたということ、上記2のような司法判断まで出たということなども手伝い、平成23年11月付けで法改正が行われた。

これにより、地方公共団体→国等への寄付の原則禁止が廃止されて、地方公共団体は建前がしっかりしたものであれば、国立大学法人等の寄付講座への寄付が、原則自由となった。

 

そのため、いまは全国の国立大学法人のホームページを見ると、「〇県の寄付でいくらいただき、△△講座をやっています」とオープンにされている。

 

【国立大学法人 浜松医科大学ホームページ】

https://www.hama-med.ac.jp/about-us/disclosure-info/kifuukeire.html

 

 

「医療と寄付金」をテーマにしたお話は、今日で終わりにしようと思う。

 

この一連の話を通して、国公立・民間のいずれも、医師を確保するということに大変な知恵とお金を使っている、ということを伝えたかった。

 

 

この辺りに関連して、僕はいつも「おらが街に病院を、おらが街に産婦人科を」と平気で仰る市町村議員の皆様に、「安易なことを言うものではない」と、声を大にして言いたい

 

地域の医療地図を理解せずに、小さな権力者たちが病院欲しいなどと言えば、そこには必ず「医師確保」「医師の奪い合い」が発生する。

街の医療政策においては、それこそ地元をよく知る地方議員にしかできない、いま現状の中ですべきことが山ほどある

 

いずれそういう、地域ごとの医療政策各論についても、取り上げていきたいと思う。

 

 

岸野康之 拝(本日重量  ㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))

医療と寄付金(4)寄付講座の仕組みと機能

今日は、トヨタはじめ製造業が、賃上げで満額回答を出したと報道されている。

 

記事を読んでいて、最近、確実に広がる資金の余剰部門と不足部門の格差が、目に見えにくいことが気になった。

世の中全体で「資金量が増加する」中で、資金不足部門がどこで、誰なのかが、表面化しにくい状況にあると思う。

資金供給と株高で助かっている産業と、コロナ自粛をモロに食らっている産業・人々との差が可視化しにくいともいえる。

 

資本主義国家という点では、我々はこの国に存する以上は、大いにドンパチすればいいと思う。

ただ日本は、弱い部分に最適な福祉をもたらしていく、民主主義的な福祉国家でもある。

 

願わくば、いま弱っているところに、必要な福祉を充当して欲しいところである。

 

 

今日は、「寄付講座」について一緒に確認してみたい。

寄付講座はなかなか面白く、僕の好きな論点の一つだ。

 

 

1 寄付講座の概要(ネット上の定義からの引用、少しあり)

 

寄付講座は、大学や研究機関が、民間企業や行政組織などから教育・研究振興のために寄付された資金や人材を活用し、研究教育を行う活動を指す。

 

寄付講座は一般的に、理系分野では研究機関の研究開発費そのものに充て、開設講座を組織化して実施される場合が多い。

他方、文系の寄付講座は大学において行われ、授業の一環として実施される場合が多い。

寄付が、資金の提供ではなく、カリキュラムやテキストを作成し、講師を派遣するといったノウハウ・人材面での寄付も多くあるようだ。

 

実施大学と提供組織との関連は、同じ専攻領域での活動を主体としたものや、地場産業と大学組織との関連など、その形態はさまざまである。

どんな団体や企業が実際に寄付をして、講座を支えているのか、見るだけでも結構面白い。

 

【東洋大学 寄付講座の一覧】

https://www.toyo.ac.jp/about/data/education/donated_course/

 

国公立大学の寄付講座もあるし、前回お話した「受配者指定寄付金」の制度を使って、支出した企業等が全額経費(損金)にできる寄付講座が設置されている場合も多い

 

 

2 医療と寄付講座の実際

 

ところで、僕は「寄付講座に寄付する側の会計業務」と、「寄付講座そのものを共同で組成する業務」の両側で実務をしてきた。

以下では、その経験を踏まえて、医療における寄付講座について少しお話したい。

 

(1)医師不足と寄付講座

 

昔から常に医師は足りない、と言われてきたが、平成16年度に始まった「新・医師臨床研修医制度」の開始あたりから、顕著な医師不足(医師の偏在ともいわれる)が加速した。

これまでのように、「医局の後輩を連れてくる」「市長の要請で医師を派遣する」という、慣行的なものが一気に崩壊した時期である。

 

その時期に、改めて脚光を浴びたのが、医学部がある大学等への「寄付講座」である。

 

ただ単純に、派遣されてきた医師に給料を支払うだけでなく、大学そのものに寄付を行い、大学本体にも手数料(取り分)がわたり、医師である教員の人件費にも充当される。

そして、代わりにその大学の教員である医師や、その医局の医師たちが、寄付をした病院に常勤、非常勤で勤務するものである。

 

(2)設置する学校側の理屈

 

当然、おカネをいただいたら報いるのは分かるが、なぜ「寄付講座」なのか。

それには、いくつか理由がある。

 

まず大学ごとに、一講座設置につき2000万円とか4000万円とか、何人の教員配置が必要とか、いろいろ定めた寄付講座設置の内部ガイドラインがある。

そのガイドラインに基づいて行われた寄付のうち、〇%などが、学校側に研究経費として配分される。

学校側にとっては、こうした真水の収入になる寄付金は、とてもありがたい。

 

次に、講座を設けるということは教授や准教授など、教員を配置することになる。

つまり大学側は、教員の人件費を受取りつつ、教員のポストも用意できる格好になる。

これで、実際に定年した大学教員が(特別な形で)教授、准教授として残る例もある。

(こういうことを単純に学内の予算で行なったら、ただの定年延長になってしまう)

 

(3)支出する側の理屈

 

医療機関などが寄付講座を設置する理由は、上記(1)に書いた通りである。

とにかく働いてくれる医師の確保、というのが正直なところだろう。

年間〇千万円を支出して寄付講座を設置している間は、医師の派遣が続くであろう、という期待もある(期待倒れに注意)。

 

企業など支出する理由には、当然大学などとのタイアップがあるし、具体的な成果は期待できずとも「タイアップ感」が出れば公益的な匂いがする。

また、企業お抱えの講座を持つということは、優秀な卒業生確保に一躍買う仕組みになっているという話もある。

 

 

3 寄付講座設置の注意点

 

(1)寄付金の使途内訳の確認

 

大学によって、寄付講座にかかる経費や、企業や医療機関が行った寄付額の使い道はまったく違う。

その内容の如何によって、寄付者が期待した成果が出せない可能性もあるので、最初に確認が必要だ。

 

(2)寄付期間

 

寄付金は年間〇千万円と多額に上るが、1年限りではなく、たいていは5年継続することなどが決められている。

寄付講座は人的投資の色彩が強いので、5年間となれば人的環境も変わる。

大学側と、寄付期間中の様々なケースについて、確認しておくべきである。

 

(3)寄付と医師派遣

 

寄付講座の教員などが、寄付元で医療を手伝う(医師派遣)という話は、よくある。

ただし、寄付金を出す側が気を付けたいのは、

「寄付講座は、寄付者と大学の取り決めであって、医師個人との取り決めは何もない」

という点である。

 

寄付講座は、あくまで大学で研究、講義等の教員活動を行うための寄付であって、診療行為には当然、何ら関係ない

その原則的な形を了解した上で、大学、医師本人と、目的、意向、医療機関側への出勤日数など、必要な確認を十分に行うことが望ましい。

 

 

 

 

寄付講座は、当事者となる大学、医療機関、そして医師(教員)の状況がマッチした時に成立するものである。

だから、決していつでもどこでもスタートできる話、ではない。

 

ただ、以前ある医療機関で、寄付講座の話をしたら、「その手があったか」となり、大学と相談が始まったことがあった。

(結果的には、講座は設置されなかったが)

 

寄付講座は、意外な盲点であるかもしれないので、もしかしたらと思う方は検討されたい。

 

 

次回は「国、自治体による寄付講座設置」という、少し楽しくマニアックなお話をしたい。

 

 

岸野康之 拝(本日重量  86.1㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))

医療と寄付金(3)受配者指定寄付金 実務と実際

少し前まで「鬼滅の刃」なるマンガ、アニメが流行っていた(我が家はコミック専門)。

 

「鬼に危害を加えられ、鬼の撲滅を誓った者たち(鬼殺隊・正義側)」

「人や、人の世に恨みや諦念を抱き、鬼となった者たち(悪者側)」

との、対立構図のお話である。

 

紛れもなく、鬼は悪い。

しかし、鬼は人が転じたもので、人間社会が作った鬼でもあった。

マンガは鬼を滅ぼして終わるが、我々の現実社会は、人を鬼にしない社会でなければならない・・・

 

 

と、今回は、医療機関の財務を扱うとしばしば出会う「受配者指定寄付金」の、実務的な取扱いに入っていく。

 

 

3 私立学校の受配者指定寄付金

 

私立学校においては、受配者指定寄付金の設定が多い。

「〇〇周年記念事業 校舎設立寄付募集」、「○○研究事業寄付募集」など、様々な寄付金募集が行われている。

 

近隣の私立医学部と関係がある医療法人などは、恒常的にこうした寄付を行っている。

なお、寄付者の立場としては、次の点に注意して欲しい

 

(1)募集要項による確認

一見それらしい寄付の募集でも、実は大学内の医局や研究事業が、独自に募集している寄付がある。

税制優遇が受けられる寄付金の場合、寄付金の募集要項に「税制優遇措置 本寄付金は・・法に基づき・・・」と説明が書いてあるので、必ずその文言を確認されたい。

 

(2)寄付する法人代表が卒業生、または法人代表の子弟が入学等する場合

法人が寄付をするときに、代表者が過去在校生だからとか、代表の子どもが通っているという理由があると、「私費」とみなされる可能性がある。

私費とみなされると、役員賞与として給与課税されるので、法人の経費にならない上に源泉所得税等の納付義務が生ずる

そのことは上述の私学事業団も注意喚起しているので、気を付けていただきたい。

 

(3)医療法人が医学部に寄付をする場合

付き合いのある医学部や教員が、たまたま設置された受配者指定寄付金への寄付を、お求めになるかもしれない。

ただそれ以外にも、大学や病院には、法人を通した研究費(研究室)への寄付、主催・共催する学会への寄付、〇〇建設への寄付など、、、

日常的に、様々な種類の寄付がある。

 

従って、「寄付を受ける側が最も受けたい寄付」「寄付する側への医師派遣など利点」をしっかり確認し、双方にとって最も効果がある寄付をすることが望まれる。

 

 

なお、寄付金を設定する学校側の立場としては、校舎(学部)新設のための受配者指定寄付金は、設定することができる。

しかし、「学校法人新設」をしたい関係者は、私学事業団ではなく「財務省の個別指定」が必要になるため、別物と捉えて準備を進めることになる。

 

【日本私立学校振興・共済事業団 受配者指定寄付金ホームページ】

https://www.shigaku.go.jp/s_kihu_menu.htm

 

 

4 社会福祉法人に関する受配者指定寄付金

 

医療法人や企業などで、「社会福祉法人の設立に伴う施設新設、施設整備等の援助したい」ときに検討されるのが、「共同募金会を通した受配者指定寄付金」である。

私立学校への寄付金の場合に比べて、「寄付をする側の主体的な意向で」設置する寄付金という色彩が強い。

 

(1)共同募金会への申し入れ、審査

 

共同募金会とは、あの「赤い羽根」の共同募金会を指している。

共同募金会は各都道府県にあり、100万円以上の取扱いは中央の管轄となるが、その場合でも、相談や事務手続、は各都道府県の共同募金会にて行う。

 

例えば医療法人や企業などが、社会福祉法人(以下「社福」という。)を設立して、特別養護老人ホーム等を建設したい場合。

ただ新設の社福に寄付をしても、法人税法の規定で、ほとんどが経費(損金)にならない。

そこで支出の全額が経費(損金)になるよう、共同募金会の審査を経て受配者指定寄付金を設置し、そこに寄付を行うのである。

 

通常は、社福設立を検討する段階に入ったら、共同募金会に申し入れを行う。

そして、設立とともに寄付を実施できるように、実務を進めていく。

 

社福設立の実務と並行して施設整備、そして共同募金会の事務を進めるので、最初のペーパープランが重要になる。

社福設立の実務については、また別の機会に書いてみたい。

 

【共同募金会(例は香川県) 受配者指定寄付金の概要】

https://www.kagawaken-kyobo.or.jp/doc/kifu/1087

 

 

(2)社福関係の受配者指定寄付金 実務上の留意点

 

① 寄付額の3%以内の事務経費がかかる

寄付額のうち、その金額に応じて3%以内の事務経費がかかる(共同募金会に納める)ことは、了解しておく必要がある。

 

② 医療法人や企業の利益にならないこと

設立準備をした医療法人や企業の代表者が、設立した社会福祉法人の理事長などになることがある。

その場合、社福側において、理事長は給与の支給を0円または少額にすることを、受配者指定寄付金設置の条件とされる場合がほとんどだ。

 

これは、寄付をした者が、寄付をされた側(受配者)でも給与を受ける、という特別の関係者への利益供与を排するための指導である。

 

【共同募金会に対してなされた社会福祉に関する寄付金についての税制上の取扱い】

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta8271&dataType=1&pageNo=1

 

③ 寄付そのものへの指導の可能性

医療法人による、社福設立のための受配者指定寄付金による寄付は、全国的に実施されている。

しかし、医療法人が社福に寄付をすることを禁止する、という指導をする都道府県の医療部局もある。

 

理由は、医療で稼得した収益を医療以外の目的で資金流出するのは、医療法第54条の「配当禁止」に抵触する、という論理のようだ。

実際に、その指導を受けて社福設立を断念したケースも聞く。

 

しかし、現に多数の医療法人が寄付を実施しており、地域包括ケアシステム時代的に、また医療費削減の観点から、指導の必要性、実効性は疑わしい。

この辺りに、中央の医療政策を都道府県が実施することの限界が感じられる。

 

 

 

かつては、多くの医療法人の理事長たちが、次の段階として社会福祉法人の設立を目指していたように思う。

しかし、平成28年の社会福祉法改正によるガバナンス強化、平成30年の「介護医療院」創設などにより、社会福祉法人運営の方法、医療との関係も少しずつ変わりつつある。

 

【令和元年度 共同募金以外の寄付金にかかる公表一覧表】

https://www.akaihane.or.jp/wp/wp-content/uploads/ab8a7708b0cec2e465e0f50fdc58782c.pdf

 

昔から、上記URLの寄付金リストをチラチラ見ているのだが、年々、この一覧の件数・金額が減少していっているように思う。

もしかすると、医療法人による寄付金という慣行自体も、すでに少しずつ変化しているのかもしれない。

 

 

次回は、大学などの「寄附講座」についてお話したい。

 

 

岸野康之 拝(本日重量  86.4㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))

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