税理士 岸野康之 事務所

医療機関専門
財務、経営、相続 アドバイザリー

医療と寄付金(3)受配者指定寄付金 実務と実際

少し前まで「鬼滅の刃」なるマンガ、アニメが流行っていた(我が家はコミック専門)。

「鬼に危害を加えられ、鬼の撲滅を誓った者たち(鬼殺隊・正義側)」

「人や、人の世に恨みや諦念を抱き、鬼となった者たち(悪者側)」

との、対立構図のお話である。

紛れもなく、鬼は悪い。

しかし、鬼は人が転じたもので、人間社会が作った鬼でもあった。

マンガは鬼を滅ぼして終わるが、我々の現実社会は、人を鬼にしない社会でなければならない・・・

と、今回は、医療機関の財務を扱うとしばしば出会う「受配者指定寄付金」の、実務的な取扱いに入っていく。

3 私立学校の受配者指定寄付金

私立学校においては、受配者指定寄付金の設定が多い。

「〇〇周年記念事業 校舎設立寄付募集」、「○○研究事業寄付募集」など、様々な寄付金募集が行われている。

近隣の私立医学部と関係がある医療法人などは、恒常的にこうした寄付を行っている。

なお、寄付者の立場としては、次の点に注意して欲しい

(1)募集要項による確認

一見それらしい寄付の募集でも、実は大学内の医局や研究事業が、独自に募集している寄付がある。

税制優遇が受けられる寄付金の場合、寄付金の募集要項に「税制優遇措置 本寄付金は・・法に基づき・・・」と説明が書いてあるので、必ずその文言を確認されたい。

(2)寄付する法人代表が卒業生、または法人代表の子弟が入学等する場合

法人が寄付をするときに、代表者が過去在校生だからとか、代表の子どもが通っているという理由があると、「私費」とみなされる可能性がある。

私費とみなされると、役員賞与として給与課税されるので、法人の経費にならない上に源泉所得税等の納付義務が生ずる

そのことは上述の私学事業団も注意喚起しているので、気を付けていただきたい。

(3)医療法人が医学部に寄付をする場合

付き合いのある医学部や教員が、たまたま設置された受配者指定寄付金への寄付を、お求めになるかもしれない。

ただそれ以外にも、大学や病院には、法人を通した研究費(研究室)への寄付、主催・共催する学会への寄付、〇〇建設への寄付など、、、

日常的に、様々な種類の寄付がある。

従って、「寄付を受ける側が最も受けたい寄付」「寄付する側への医師派遣など利点」をしっかり確認し、双方にとって最も効果がある寄付をすることが望まれる。

なお、寄付金を設定する学校側の立場としては、校舎(学部)新設のための受配者指定寄付金は、設定することができる。

しかし、「学校法人新設」をしたい関係者は、私学事業団ではなく「財務省の個別指定」が必要になるため、別物と捉えて準備を進めることになる。

【日本私立学校振興・共済事業団 受配者指定寄付金ホームページ】

https://www.shigaku.go.jp/s_kihu_menu.htm

4 社会福祉法人に関する受配者指定寄付金

医療法人や企業などで、「社会福祉法人の設立に伴う施設新設、施設整備等の援助したい」ときに検討されるのが、「共同募金会を通した受配者指定寄付金」である。

私立学校への寄付金の場合に比べて、「寄付をする側の主体的な意向で」設置する寄付金という色彩が強い。

(1)共同募金会への申し入れ、審査

共同募金会とは、あの「赤い羽根」の共同募金会を指している。

共同募金会は各都道府県にあり、100万円以上の取扱いは中央の管轄となるが、その場合でも、相談や事務手続、は各都道府県の共同募金会にて行う。

例えば医療法人や企業などが、社会福祉法人(以下「社福」という。)を設立して、特別養護老人ホーム等を建設したい場合。

ただ新設の社福に寄付をしても、法人税法の規定で、ほとんどが経費(損金)にならない。

そこで支出の全額が経費(損金)になるよう、共同募金会の審査を経て受配者指定寄付金を設置し、そこに寄付を行うのである。

通常は、社福設立を検討する段階に入ったら、共同募金会に申し入れを行う。

そして、設立とともに寄付を実施できるように、実務を進めていく。

社福設立の実務と並行して施設整備、そして共同募金会の事務を進めるので、最初のペーパープランが重要になる。

社福設立の実務については、また別の機会に書いてみたい。

【共同募金会(例は香川県) 受配者指定寄付金の概要】

https://www.kagawaken-kyobo.or.jp/doc/kifu/1087

(2)社福関係の受配者指定寄付金 実務上の留意点

① 寄付額の3%以内の事務経費がかかる

寄付額のうち、その金額に応じて3%以内の事務経費がかかる(共同募金会に納める)ことは、了解しておく必要がある。

② 医療法人や企業の利益にならないこと

設立準備をした医療法人や企業の代表者が、設立した社会福祉法人の理事長などになることがある。

その場合、社福側において、理事長は給与の支給を0円または少額にすることを、受配者指定寄付金設置の条件とされる場合がほとんどだ。

これは、寄付をした者が、寄付をされた側(受配者)でも給与を受ける、という特別の関係者への利益供与を排するための指導である。

【共同募金会に対してなされた社会福祉に関する寄付金についての税制上の取扱い】

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta8271&dataType=1&pageNo=1

③ 寄付そのものへの指導の可能性

医療法人による、社福設立のための受配者指定寄付金による寄付は、全国的に実施されている。

しかし、医療法人が社福に寄付をすることを禁止する、という指導をする都道府県の医療部局もある。

理由は、医療で稼得した収益を医療以外の目的で資金流出するのは、医療法第54条の「配当禁止」に抵触する、という論理のようだ。

実際に、その指導を受けて社福設立を断念したケースも聞く。

しかし、現に多数の医療法人が寄付を実施しており、地域包括ケアシステム時代的に、また医療費削減の観点から、指導の必要性、実効性は疑わしい。

この辺りに、中央の医療政策を都道府県が実施することの限界が感じられる。

かつては、多くの医療法人の理事長たちが、次の段階として社会福祉法人の設立を目指していたように思う。

しかし、平成28年の社会福祉法改正によるガバナンス強化、平成30年の「介護医療院」創設などにより、社会福祉法人運営の方法、医療との関係も少しずつ変わりつつある。

【令和元年度 共同募金以外の寄付金にかかる公表一覧表】

https://www.akaihane.or.jp/wp/wp-content/uploads/ab8a7708b0cec2e465e0f50fdc58782c.pdf

昔から、上記URLの寄付金リストをチラチラ見ているのだが、年々、この一覧の件数・金額が減少していっているように思う。

もしかすると、医療法人による寄付金という慣行自体も、すでに少しずつ変化しているのかもしれない。

次回は、大学などの「寄附講座」についてお話したい。

岸野康之 拝(本日重量  86.4㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))


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