税理士 岸野康之 事務所のブログ 一覧
医療と寄付金(2)受配者指定寄付金の概要
今日お邪魔した、クリニックの院長曰く。
「地域医師会から3月中に医療者向け、コロナワクチンの配布があると聞いた。
ところがそれが4月に延期になり、昨日は5月になると連絡があった」
とのこと。
「先生の地域はまだいい方です」と実感をお話したら、先生も「確かに、区部はもっと遅れているらしい」と。
この件については、医師会または地域単位で、順番や取りまとめの「精度差」がとてもある。
それもそのはずで、ワクチンが入る本数、アナフィラキシー症状以外の副反応など基礎情報が、あまりに不確かで流動的だから、当然の話だ。
しかし、だからといって真の供給状況や副反応の情報を出したら、単なる社会不安に陥るかも知れない。
そういう部分を含めて、コロナ禍は、現代の医療政策の基本的な難しさを浮き彫りにしている。
さて、今日の本題に入りたい。
1 指定寄付金とは
まず平易な言葉で、「指定寄付金」をおさらいしておこう。
(1)個人所得税の指定寄付金
公益性や緊急性が高い寄付で、財務大臣が指定したものをいい、この指定を受けた団体への寄付をした個人は、確定申告で「寄付金控除」を受けられる。
(2)法人税(会社などが行う寄付)の指定寄付金
普通は、法人が寄付をしても、ほとんど経費にならないと思って欲しい。
おカネを支出しても経費にならない、それが法人の寄付の「原則」である。
ただし、いくつかの「例外」がある。
①国や自治体への寄付金
②公益性や緊急性が高く、財務大臣が指定した「指定寄付金」
③NPOや私立学校などの公益的団体に支出する「特定寄附金」
このうち、③は一般の寄付金より、ちょっとだけ多く経費になる。
一方、①②は、全額が経費(損金という)になる。
当然、法人としては税負担を思えば、経費になる寄付金を支出したいわけなので、①②の寄付をしたい。
③や一般の寄付というと、たとえ業務上の必要があっても、及び腰になる。
そのようなわけで、指定寄付金とは、「ここは必要だから、税制優遇するから寄付してね」と、国が指定した寄付金のことを言う。
(実際には、財務省告示・・号 という形で多数定義されている)
【財務省告示の主なもの】
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/110501/files/2012040600292/2012040600292_www_pref_kochi_lg_jp_uploaded_attachment_889.pdf
2 受配者指定寄付金の概要
ところで、主に文部科学省、厚生労働省など管轄の事業について、よく「受配者指定寄付金」というものが登場する。
これは簡単に言うと。
私学や民間でも、その事業が「真に公益的である」とお墨付きを得た事業であれば。
そこに寄付をした法人は、寄付金を全額経費(損金)にしていいよ、というものである。
(これを受けている寄付金は、個人も寄付金控除ができる)
全額が経費になるということであれば、寄付に積極的になる法人も出てくる。
(1)事業の実施主体
特定事業のために、多額の寄付を必要とする私立学校や社会福祉法人など
(2)配者指定寄付金を了承する(お墨付きを与える)団体
・私立学校などの場合「日本私立学校振興・共済事業団」
・社会福祉法人などの場合「共同募金会(赤い羽根)」
(3)審査
寄付をした者と受ける者が、特別の利害関係が無いことや、間違いなく必要な事業や建設に充てられることなどについて、上記②の団体の審査を通過して、初めてこの指定寄付金を募集することができる。
と、ここまでで既に長くなってきたので、今日はここまでにしたい。
私立学校への寄付は、医学部とつながりがある医療法人、医療機関にとって極めて重要な寄付金だ。
そして社会福祉法人の設立と運営に向けた寄付は、民間医療機関によるグループ内地域包括ケア体制構築のための、重要な要素となる。
次回は、その私立学校と社会福祉法人について、受配者指定寄付金の実務経験を踏まえて、お話したい。
岸野康之 拝(本日重量 86.5㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
医療と寄付金(1)医療機関と、身近な寄付金
緊急事態宣言が解除されるとの報道が出ている。
(まだ、分からぬが)
思えばこのコロナ期間、いろいろなことがあった。
改めて日本人は「自粛」で言うことを聞く、ということが分かった。
時の総理が、誰かの助言によって、全国に小さなマスクを送ってきた。
「密」という概念が誕生し、日常の発想が逆転した。
学校は再開したが、大学の再開は相当遅れた。
国内の移動は相当に制限、海外の渡航はさらに厳しくなった。
相当数の飲食店や観光業などが、苦境に陥った。
画面越しのビジネスが大きく展開され、通勤、移動の概念が変貌した。
まだまだ、あげればキリがないが。
これからタイムラグを経て、貨幣供給を急増させた世界経済の変化、補助金等でしのいできた事業者の苦境など、進んでいくように思う。
我々は、そういう次の動向を注視していかなければならない。
さて、今日から「医療と寄付金」について、書いてみる。
初回の今日は、身近な医療と寄付金について触れてみたい。
1 ふるさと納税の続き「ふるさと納税での公立病院支援」
さて、前回書いたように、ふるさと納税は通常の寄付金控除に比べて、大変お得な制度設計になっている。
ところでふるさと納税の中には、「返礼品が付いていない、ただ純粋な公共施設への寄付」というメニューもある。
例えばインターネットで「市民病院 寄付」などと検索すると、いくつかの病院が上がってくる。
それらの病院は、病院の医療機器購入などの寄付を募っているのだが、その寄付にふるさと納税の仕組みを使っている病院がいくつかある。
ある程度使途が決まっている病院が多いので、かつて入院した病院などへのお礼で、という人は、2000円程度の僅かな負担で、万単位の寄付をすることができる。
ただ病院のホームページ等を読んだだけでは、「どの制度の寄付金が適用されるか」分からない人も多いと思うので、関心がある方は、当事務所のお問合せページからご連絡をいただきたい。
2 日赤をはじめ、公的病院への寄付など
日本赤十字社はいわゆる公共団体ではないが、税法上の「特定公益増進法人」であったり公益法人のジャンルに属したりする、公的な団体だ。
日本赤十字社の寄付金は、非常によく見かけるが、他にもそういう公的な医療機関はたくさんあり、それなりの税制優遇がある。
なお、「公的な病院の範囲」が知りたい方は、当事務所のお問合せページからご連絡をいただきたい。
ところで、そうした団体への寄付については、主に次の態様がある。
(1)個人として
個人として公的な病院に寄付をした場合は、通常の寄付金控除を受けることができる。
(2)個人の相続や遺贈に伴う寄付
それから相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに、国等や公的な団体に寄付した場合には、その寄付した財産については、相続税の課税財産にならない。
つまり、相続税の負担が軽減されるのである。
このテーマは、富裕層の相続の仕事をする者にとって、重要テーマの一つである。
(3)法人として
法人(会社とか医療法人)が行う寄付というのは、税制上あまり有利に取り扱われない。
しかし、公立病院のような国・自治体の団体への寄付額は、全額が経費(損金)になる。
そして公的な団体への寄付は、全額経費とはならないが、経費に入れてよい割合が、普通の寄付金より少し高い。
また細かいことだが、4月~9月に行う日赤への寄付で一定のものは、上記の「全額が経費(損金)になる」取扱いがあるので、検討される法人は日赤に問い合わせていただきたい。
3 学校への寄付、身内がいる場合の注意
よく医学部出身者や、子供が医学部に入学した場合などに、私立の学校法人などから寄付を求められることがある。
しかし子弟の入学に際して支出した寄附金は、寄付金控除の対象にならないので注意が必要だ。
また、その学校向けの寄付を、自らの医療法人などから寄付金として支出する場合があるが、この寄付は経費として認められない可能性が高い。
認められないだけでなく、「給与課税」という形で、税務上の更なるペナルティが発生することもある。
理由は、それは理事長の個人的事情による支出であって、業務上の何にも関係しないとみなされるためである。
僕は駆け出しの頃、その辺りの扱いが分からずに理事長に「いいですよ」と述べた後、先輩に指摘を受けて、理事長に謝罪しに行ったことがある。
寄付というのは、医療や税金を扱う仕事をしていると、どこまでもついて回ってくる。
法人の税務などしていると、「寄付」と聞くと少し警戒心が湧いてくるものだ。
次回以降、だんだん医療界のマニアックな寄付について触れていきたい。
岸野康之 拝(本日重量 86.7㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
医師と税金(8)所得控除シリーズ ⑤寄付金控除withふるさと納税
東日本大震災から10年が経過し、いまも復興や原発問は道半ばの状況にある。
常々思うのは、「国土政策を、真剣に考えるべきでは」ということだ。
震災後しばらくは、次はどこが危ないとか、色々なリスクの議論が出ていた。
しかしその頃から、災害には厳しそうな高層マンション建設が、全国で加速した。
そして東京オリンピック決定で、多くの人的、経済的リソースが、東京に集中した。
資本が集中する場所に資本投下するのが、資本主義成長の近道だ。
「選択と集中」の言葉通りである。
しかし、一極集中する成長地域をよそに、疲弊しまくる地域経済がある。
やがて、そこも引っ張られて成長する、というのは紙の上の理論で、その日はいつ来るか知れず、もしや永遠に来ないかもしれない。
攻めの経済政策は大いに結構、あまり関心はないが、五輪も万博もやるといい。
しかし、せめて小さな国全体の潤いを考えた国土政策を、常々望むところである。
というところで、所得控除シリーズのラスト「寄付金控除」と、その中の「ふるさと納税」を見てみたい。
15 寄付金控除
(1)寄付金控除の概要
納税者が、一定の団体などに寄付をすると、寄付した額から2000円引いた金額の所得控除が受けられる。
10,000円の寄付をしたら、8000円が寄付金控除できる。
だから、税率が20%の人は1,600円、40%の人は3,200円の減税だ。
あと、寄付の限度額は総所得などの40%(給与所得1000万円の人は400万円まで)というルールがある。
その寄付金控除できる一定の団体は、だいたい次のようなところである。
①国や自治体
②公益社団法人ほか一定の団体の事業で、財務大臣がOKしたもの
③あと一定の「独立行政法人」「地方独立行政法人」「日本赤十字社」「社会福祉法人」「公益社団(財団)法人」「私立学校等」「認定NPO法人」などなど・・・
④個人が行う、いわゆる「政治献金」で一定のもの。
→ 政治では、より有利(かもしれない)税額控除制度もあるので、関心がある方は一番下の国税庁URL参照。
なお寄付金控除を受けるには、自営業者でも勤め人でも確定申告が必要になる。
税務署の税務相談員などしていると所得層や職業に関係なく、何かの寄付をされている方は、存外に多い。
ぜひ一度、試してみていただきたい。
(2)ふるさと納税の概観 ~寄付金控除制度のうちの一つ~
ふるさと納税が始まって、もう13年が経っている。
「納税」と名がついているが、この制度はもともと「寄付金控除」を利用した、大幅リメイク版の寄付金控除である。
表面のお金の流れは、我々納税者が、各自治体に直接寄付をしているわけなので、本当なら「ふるさと寄付金」と呼ばれるべきものだ。
ただ我々から見れば寄付だが、お金を受け取る自治体サイドには事実上の税収なので、「ふるさと(自治体)納税」ということになるのである。
【仕組み】
まず国の所得税について、寄付金控除を受けることができる。
続いて、地方の住民税についても控除を受けることができる。
そういう計算式の結果、適切な計算をすれば、数万円以上の寄付をしても、持ち出しは2000円程度になる。
おまけに結構いい「返礼品(寄付額の3割程度の価値のもの)」がもらえる。
10万円寄付して2000円だけが持ち出しで、3万円分の返礼品が付いてくる感じだ。
令和元年度の利用実績は、寄付額4857億円、寄附件数2300万件以上。
利用者人数は、400万人を超えているようで、大人気国策となっている。
ネット上のふるさと納税用サイトを使うと、初回登録から寄付申し込みまでが10分程度でできる。
一度初回登録を済ますと、思い付いたときにAma〇on感覚で気に入った返礼品を探して1分くらいで寄付できる、ちょっとした贅沢な遊びだ。
また、自分の所得で「有利な寄付はいくらまでか」、サイトにシミュレーション機能も付いている。
例えば、独身で年収1000万円だと172,000円まで有利に寄付できる、というようなことがすぐ計算できる。
(3)ダチ公と飲むカネ、公的団体への寄付金、そしてふるさと納税
同じ1万円の使い道を、比べてみよう。
①ダチ公と呑んで1万円使う場合
A 使った1万円は、1円も戻ってこない。
B 友情や絆、楽しい気持ち(たぶん)が得らえる。
②公益的な福祉団体に、1万円寄付をする場合(所得税率20%の人の場合)
A (1万円-2,000円)= 8,000円 8,000円×20% = 1,600円の減税。
B 役に立ちたい団体に、貢献した気持ち(たぶん)が得られる。
③気に入った自治体に、1万円のふるさと納税をした場合
A 負担は(ある額まで)2,000円なので8,000円減税、返礼品3,000円程度分GETで、1万円出して1.1万円のリターンな感じ。
B ふるさとに、貢献した気持ち(たぶん)が得られる。
さて、あなたは明日、ダチ公と飲みに行くか。
公的団体に寄付をするか、それともふるさと納税をするか・・・
(お友達、とても大切)
ふるさと納税は、「納税者の街から、寄付先の街への資金還流」である。
正直、それが統計的、現実的に、何を潤して、何を損なっているかは判然としない。
それでも僕は、国が税制という仕組みを使ってこの「小さなお祭り騒ぎ」をしていることを、歓迎したい。
多少の無駄はあれど、地域活性化の側面はあるし、いまやサラリーマンにも使いやすくなり(ワンストップ制度)、ちょっとした庶民の楽しみである。
絶対に正しい試みなど、存在しない。
そうであれば、国全体に富やサービスが行き渡るように、国には色々チャレンジして欲しいと思う。
【寄付金等に関する 国税庁のURL】
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1150.htm
- *ふるさと納税の情報は、「ふるさと納税」と検索するといろいろ出てくる。
さて、寄付の話ついでに。
次回以降は「医療制度と寄付金」について、何度か、書いてみたいと思う。
岸野康之 拝(本日重量 85.9㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
医師と税金(7)所得控除シリーズ ④医療費控除
今更ながら、YouTubeというのは本当にすごいと思う。
僕は夕方以降に事務所で流す音楽を、YouTubeからよく拾っていて、大変便利している。
危ないのは、つい手が滑り、大食い動画などチラ見すると、はまり込んでしまう点だ。
しかも会議等がZOOM社会になってきているので、その流れでつい、ということもある。
さあ、仕事に集中だ。さて・・・
14 医療費控除
医療費控除は、確定申告すれば開業医でも勤務医でも、「医療費が10万円を超えたら」年間200万円まで控除を受けられる。
(医師ほど所得が高くない場合には、10万円未満でも使えることがある)
要件は、自分か、自分と同一生計の配偶者や親族のために1年間に支払った医療費である。細かいことは国税庁のURLを見てもらうとして、僕からは実際的に知っておいて欲しいことを、いくつかお知らせしたい。
(1)「支払った」金額が対象
令和2年12月末に救急で治療を受けて、令和3年1月5日に支払った分は、令和3年度分の確定申告(令和4年の春に提出する分)で申告する。
治療を受けた日でなく、支払をした日がいつか、で判断する。
(2)自費診療でも対象になるものがある
よく「自費はダメ」と思っている方がいるが、自費診療でも医療費控除を受けられるものがある。
それは病気やけがなどによって、「医師の診察により」、その自費診療が必要であるとされるものだ。
典型的なものは歯科のインプラント治療で、高額であるが、オーソドックスなインプラントは医療費控除の対象となる。
ただし、美容整形ほか病気等の治療などには関係ない自費診療は、対象にならない。
(3)介護保険系の支出
基本的に、国は「医療」というものを「介護」とは明確に区別している。
しかし医療費控除においては、数多くの介護保険サービスへの支払も、医療費控除の適用を受けることができる。
介護保険サービスは多岐に亘り、中には控除の対象外のものもあるので、よく確認していただきたい。
(4)高額療養費や、医療保険で補填された部分は、控除対象にできない
これについては、心当たりがある人は、次に例示するルールを読んでいただきたい。
6月に骨折で入院 支払った医療費20万円 医療保険など受取り30万円
10月にインプラント 支払った医療費50万円 医療保険など受取り 0円
この場合の計算は、次のようになる。
・(20万円+50万円)-30万円 → 40万円が計算の対象 ではない。
・(20万円―30万円)=0円 残る50万円が計算の対象 となる。
つまり、「医療保険金(高額療養費)が出た分の診療費だけ控除できない」ので、同年中の他の治療の控除を受けられる場合がある。
(5)領収証等の関係
少し前までは、領収証を全部封筒で税務署に郵送などする、物理的に手間がかかる仕組みだった。
しかし、いまは集計結果を電子申告などで提出して、領収証等はしっかり手元保管してあればよい、という手軽な仕組みになっている。
最近はさらに、医療費の通知(保険機関などが発行)を添付すれば良いようにもなった。
とにかく便利になったのだが、複雑さを増した面もあるので、「本当にこれでいいのか」迷ったら、税務署や税理士に確認したほうがいい。
なお、必ず控除の対象にした医療費の領収証等は、5年間は保管しておいて欲しい。
(6)同一生計の親族の医療費
意外に見落としがちなのが、自分だけでなく家族、親族の分の医療費も、自分の医療費控除に加えることができる点だ。
扶養控除などと同様に、同居かどうかでなく「同じ生計かどうか」で判断するので、よく確認していただきたい。
【医療費控除関連の 国税庁URL】
・医療費控除
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
・医療費控除の対象となるもの
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1128.htm
・医療費控除の対象になる介護保険サービスなど
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/010131/01/03.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1125.htm
とにかく、医療費控除の書籍が出ているくらい、医療費控除は奥が深く複雑である。
毎年の確定申告を通して、慣れていただき、また専門家に聞いたり良く調べたりするようにして欲しい。
次回は最後、「寄付金控除」とその関連の内容に触れていく。
岸野康之 拝(本日重量 86.5㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
医師と税金(6)所得控除シリーズ ③8つの人的な控除
最近は、税制が複雑の度合いを増している。
昔は「課税の公平」「財政均衡」などなど、軸のある議論があったように思うが。
いまはIT技術の向上とともに、法的インフラの改変も簡単になった。
その結果、政治家の思いつき改正を、役人がそのまま形にしてしまい、際限なく複雑になってきた感じがする。
国には、簡素な税体系を目指す、という当初の気持ちを取り戻してほしいものだ。
さて、今日は人の生活や家族の所得に関係する、「人的な所得控除」を見ていこう。
僕は概要を自分の言葉で説明し、詳細は国のURLを貼り付けておきたい。
【僕の説明は要点のみなので、人的な所得控除全体を記した財務省の URL を先に貼付】
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/b03.htm#a01
6 扶養控除
扶養親族がいる場合には、そのいる人数分の「扶養控除」が受けられる。
扶養親族とは、基本的に年末時点で次の要件を満たす人をいう。
① 親族(配偶者以外、里子などを含む)で、申告する納税者と同一生計
② 年間所得などが48万円以下(給与のみなら給与収入103万円以下)
③ 自営業者である納税者の事業から、給料などを受けていないこと
ということだが、いくつか気を付けて(気にして)欲しいことを書いてみよう。
(1)親族とは
税の法律で親族というと、だいたい「6親等内の血族及び3親等内の姻族」をさす。
絵的にはこんな感じ(国税庁HPより)。
親族というと、父ちゃん母ちゃん子供、とイメージするが、扶養親族の範囲は広い。
(2)離れていても扶養していれば
遠くの実家の親族の生活を支えていたり、子供を仕送りで養っていれば、(①~③の要件を満たしていれば)彼らは立派な扶養親族になる。
(3)よく見ると16歳未満は対象外
16歳未満の子供は、2010年からのM政権が「子供手当の拡充」を実施したのと引き換えに、扶養控除から外れた。
子供手当がどの程度、子育て家庭に潤いをもたらしているかはともかく、その後J/K政権になり元に戻すかと思ったら、戻さない。
本気で少子化対策をやる気があるのかわからないが、とにかく16歳未満は扶養控除の対象にならない。
とにかく扶養控除は意外に対象範囲が広いので、「おや?」と思った人は確認して欲しい。
【国税庁 配偶者控除のURL】
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
7 配偶者控除
次の要件に全て当てはまる配偶者がいると、普通は38万円、70歳以上なら48万円の控除を受けられる。適用できる要件は、上記6の扶養控除とほとんど同じだ。
① 婚姻関係にある(内縁などではない)、同一生計
② 年間所得48万円以下(給与のみなら給与収入103万円以下)
③ 自営業者の配偶者としてその納税者から給与を受けていない
ところで平成30年の税制改正で、上記に加えて、次のように変更された。
A.納税者本人の一定の所得が900万円以上だと、控除額が段階的に減る
B.納税者本人の一定の所得が1000万円を超えると控除を受けられない
つまり、高所得者には配偶者控除をさせないように、課税強化されたのである。
個人への増税傾向と配偶者が働く動機付け作りという点で、今後も課税のすそ野が広くなることが予想される。
【国税庁 配偶者控除のURL】
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm
8 配偶者特別控除
配偶者の所得が48万円を超えて、上記の配偶者控除が受けられない場合にも、「配偶者控除とほぼ同じような」要件を満たしていれば、1万円~38万円の控除が受けられる。
以前から、この配偶者特別控除はお得な控除というより「配偶者控除の所得要件(48万円以下、など)から漏れたときに、金額は減るけど少しは控除できる」、という位置付けの控除だった。
この控除がある、ということだけ知っておいたら、あとはこの控除よりも上記6の配偶者控除と、「社会保険の扶養」から外れないように、気を配っておいていただきたい。
【国税庁 配偶者特別控除のURL どんな話なのか、チラリと金額表を見て欲しい
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1195.htm
9 障害者控除(税法上の漢字表記をそのまま用いていることを、念のため申し添える)
納税者自身、同一生計の配偶者又は扶養親族が、所得税法上の障害者に当てはまる場合に、一定金額の障害者控除を受けることができる。
障害者控除は、扶養控除の適用がない16歳未満の扶養親族にも適用される。
因みに、僕は生まれつき右耳が全く聞こえないが、障害者の定義にハマっていないので、残念ながらこの控除は適用できない。
この障害者の範囲は意外に広いということ、しかし定義がきっちり決まっているので、下のURLで適用できる者の定義をよく確認して欲しい。
【国税庁 障害者控除のURL】
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1160.htm
10 勤労学生控除
名前の通り、勤労学生が受けられる所得控除である。
が、僕自身、実務で使ったことがなく、税理士試験のときに暗記しただけの控除なので、「もしや」と心あたる人は、国税庁の説明を見て欲しい。
【国税庁 勤労学生控除のURL】
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1175.htm
11 寡夫控除、寡婦控除 12 ひとり親控除(新設)
これらは離婚後、死別後に一人で扶養親族を抱えていたり、未婚の一人親だったりする場合に適用される控除だ。
少し前は「男性の寡夫はやや不利」「未婚の一人親は不適用」など、不十分な制度だった。
それが、前年度の税制改正で男女いずれも等しくなり、「同一生計の子どもを有する単身者」であれば、未婚の一人親も受けられるようになった。
僕の実務感覚では、実は寡婦(夫)控除をちゃんと申告できていない(あると知らない)で控除を受け損ねている人が、全国的には結構いる気がする。
ぜひ、下記URLで確認して欲しい。
【国税庁 寡婦控除とひとり親控除のURL】
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1170.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1171.htm
13 基礎控除
これは全国民等しく、38万円の所得控除が受けられる制度である。以上。
で、説明が済む制度だったのが、昨年大幅に税制改正されて控除額が48万円に増額された代わりに、年収が2400万円を超える人は控除額が減少、または0円となった。
先日、個人申告のお客様の申告書を作り終えたときに、申告書を点検したら、何だか違和感があると思ったら「基礎控除額がない(会計ソフトちゃんが0円とした)」。
そこで初めて、この税制改正があったことを、実感としてピンときた。
ともかく、そういう控除である。
【国税庁 基礎控除のURL】
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1199.htm
さて、所得控除はあと二つ。
次回以降で、医療費控除と寄付金控除を見ていこう。
岸野康之 拝(本日重量 86.6㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
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