税理士 岸野康之 事務所

医療機関専門
財務、経営、相続 アドバイザリー

財務指標を見るときに

福祉医療機構(WAM)が出した2019年度の決算分析が出ていた。

表面を見たところ、一般病院の利益率は苦戦していて、療養型病院の業績はやや上向きで堅調、という内容だ。

「一般病院の医業収益対医業利益率は前年度から 0.6 ポイント低下し 1.2%であった。療養型病院は前年度から 0.5 ポイント上昇し 5.7%、精神科病院は 1.2 ポイント低下し 1.7%であった。いずれの病院類型でも 2019 年 10 月の消費税増税に伴う報酬改定などを受け患者 1 人 1 日当たり入院医療収益は増加していたが、一般病院と精神科病院では人件費などの費用の増加が収入の増加を上回っていた。」

https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/210219_No009.pdf

つまり、病院全体は増税改定で収入が増えたが一般と精神科は人件費の伸びが大きく、苦戦したということである。

業界のトレンドを読む上では、こういう財務統計はとても役立つ。

ところが、こうした統計から読めるトレンドは、個別病院の業績を読む上で参考にすることはあっても、「全体がこうなので、この病院も同じ傾向です」とは、当てはめることはできない。医療統計を読む時には、いくつか気を付けたい点がある。

まず、今回の福祉医療機構の統計は約80%が普通の民間医療法人、残る20%程度が非課税の法人などで占めている。普通の民間医療法人とは、企業と同じく税金を納める医療法人だから、赤字続きでは倒産してしまうが、大黒字を出して納税するよりは、当然節税や再投資による利益圧縮を目指すバイアスは働く。一方、同じ民間でも非課税の法人は、利益に課税されないので、遠慮なく利益を計上できる。

医療の財務統計は、一般の中小企業統計などより精度は高いが、上場企業の統計のように「みんなが黒字を目指す(黒字が善)」前提にあるわけではない、ということだ。

ところで、この統計には載ってこない国立、公立などはどうかといえば、同じ医療機関でも「赤字補填の補助金」にあたるものがある。基本的に、民間には設備投資等の補助金以外は出ない(それもほとんど出ない)。しかも公立病院などは、補助金的なものを受領しても、大半が赤字続きという状況だ。

だから、国公立と民間が同じ「病院」として混ざった統計を見るときは、中には大黒字で資本蓄積が進んでいる団体と、非課税で多額の補助金を得てもなお赤字の団体の、いずれもが含まれているということに、留意したほうが良い。

こういう「国立」「公立」「医療法人」「学校法人」など、開設している団体が異なることを、『開設主体の違い』と呼んでいる

かねてより日本の医療界では様々な課題が議論されているが、僕は、この開設主体の垣根をある程度取り払えれば、制度的課題の大半は解決できるのでないか、と思っている。

次回は、開設主体について、少し取り上げてみたいと思う。

岸野康之 拝 (本日重量 88.0㎏   2021年2月21日 着衣89.3㎏)


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