税理士 岸野康之 事務所

医療機関専門
財務、経営、相続 アドバイザリー

公立病院の繰入金論議(2)

前回、公立病院等への「繰入金」について質問をいただいた、というメールを紹介した。
そのご質問者に、僕は以下のような返信をお送りした。

以下、返信メールの原文そのまま、ご覧いただきたい。

1 繰入金の概論

自治体病院の繰入金とは、自治体から病院への、補助金的な給金のことを言います。
国は自治体の財政節度を守るために、「繰入金の繰り出し基準」を設けています。
それにより、一応、自治体が病院に出せる金額は、医療の種類ごとに出していい上限が決められています。

ただ、その基準は「収入だけでは不足する金額を繰り出して良い = 足りない分だけ出して良い」と読めるような基準です。
そのため、東京都、大阪府をはじめ、多くの自治体がもっともらしい理由を付けて、バリバリすごい額を、繰り出しています。

ところで繰り出し金のうち大半は、完全に自治体の「自主財源」で、病院に出しています。
なので、財政力のある自治体は、上記のようにそれらしい理由を付けてガンガン繰り出します。
しかし、財政力が弱い自治体は、逆にいろいろ理由を付けて繰り出さないように、頑張っています。

さて、「大半は自主財源」と言いましたが、割合は少ないですが国の財源も、繰入金には混じっています。
それは「地方交付税」と呼ばれるもので、病床1床745,000円、プラス医療の種類に応じたボーナスが、国からもらえます。
ただ、それは全国一律(に近い)基準であり、ガンガン出す金持ち自治体は、交付税をはるかに超えて繰り出すし、貧乏自治体は、交付税交付分程度しか繰り出さない。
なので、繰入金の繰り出し方は、地域や自治体によって大いに異なります。

 2 二つの繰入金

ところで、繰入金には2種類あります。
皆さんが、「赤字補填」と思っているものは、記事中の8000億円のうち、6000億円です
その6000億円が、上記1 で説明してきた仕組みのものです。

もう一つの残る2000億円が、「病院などの建設助成のための繰入金」です。

総務省の繰り出し基準によると、100億円の病院を建てるとき、50億円は病院自主財源、もう50億円は自治体が出すということになっています。
つまり、病院自体の支払能力の2倍の病院が建てられる、ということになります。
だから豪華病院が建つのです。病院も自治体も、どっちも苦しくなりますが。

なお、自治体の財源分については、100億の建設なら25億円程度が地方交付税で補填されます。

繰り返しですが、赤字補填的な繰入金は6000億円、建物の借金返済のための繰入金は2000億円。
その中には、それぞれのルールで、地方交付税という国による補填金が含まれている、ということです。

 3 その他の補助金は
実は、自治体病院は、上記の繰入金を除くと、それほどほかに特別な補助金はもらっていません。
繰入金を除くと、自治体病院がもらえる補助金は民間ももらえるものです。
もっとも、救急を自治体や公的だけに担っている地域では、民間以外に救急補助金が出ている、と言えます。
また、そうは言いつつ、地域や病院の個別事情で出ているものもあります。
ただ、原則は自治体病院だけの補助金というのは、ないことになっています。

 さて、以上の基礎知識を踏まえた上で、次のペーパーをお読みいただくと、理解しやすいと思います。

4 私の意見

 15年以上、地方公共団体の仕事に関わっている私から見ると、問題提起する側の論法も、制度実態も、ぜんぜん変わっていないな~と思います。
むしろ10年前は繰出し額が7000億円超くらいでしたから、何気に順調に増加してますね。
おまけに自治体の皆さんは、基本は非課税ですから、民間で公共性が高い医療をやっている人たちには、腹立たしい話です。
ただし、民間でこの議論をしようという人たちは、「官側の実像」もよく理解して取り組まないと、一蹴されてしまいます。
日本において官業は強固ですから、ただ「いかーん!」叫ぶだけでなく、知恵と勢力を結集して頑張りましょう。

と、以上のように返信した。
昔から、分かり切った議論をなぜ、繰り返し何十年もやっているのだろうと思う。

その理由の一つは、総務省がカネを地方に振り当てる手続と、医療行政の手続は、「一切関係がない」ことに起因するだろう。

総務省が自治体に医療資金を出すことを、医療関係者が「ダメ」といっても、総務省的には「地方自治に口出すなよ」というだけの話だ。

我々は、総務省がおカネを出すことにNoをいうより、厚労省に「総務省と同じくらい出せ」と働きかけるべきである。

岸野康之 拝(本日重量 85.0Kg  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))

TOP