税理士 岸野康之 事務所

医療機関専門
財務、経営、相続 アドバイザリー

社会医療法人(4)制度の全体と要点

緊急事態宣言の部分的な解除とのこと、これは大いに歓迎したい。

昨年10月に病院聖地のひとつ、麻生飯塚に行ったとき、普段は病院職員などでにぎわうはずの繁華街が、ゴーストタウンのようになっていて驚嘆した。

その人気なさ、閑散ぶりは日頃見ている、新宿・歌舞伎町や銀座の人の少なさ、どころではない。

地方経済は一連の自粛で、都市圏の生活者には想像がつかないほど、疲弊している。

我々は、我が国は、国土と国民生活を、改めて考え直さなければならないと思う。

さて、今日は社会医療法人の全体と要点を、おさらいしておきたい。

歴史的背景や周辺環境について細かく書くと長くなるので、論点を絞りながら書いてみる。

1 社会医療法人に求められる役割と要件

現在全国に320件以上ある社会医療法人は、漏れなく次の(1)~(5)の要件を充足して、認定されている。

(1)次の、いずれかの事業を一定量以上実施していること

①救急医療(精神科は精神科救急医療)

②小児医療

③周産期医療

④へき地医療

⑤災害医療

(2)都道府県が、その病院を上記(1)の事業を実施する病院として医療計画に記載していること

(3)出資持分を有していないこと

(4)収入中の、社会保険診療報酬などの割合が80%以上であること

(5)役員や関連団体における親族割合が3分の1以下であること

(6)役員報酬が世間一般に比して高額にならないこと

(7)役員や他の団体等に、特別の利益を供与していないこと、などなど

上記(1)①~⑤の中で、救急医療を一定量以上実施して、社会医療法人になっている医療法人が、圧倒的に多い。

この救急医療要件については、必ずしも救急件数の「数」ばかりこなさなくても、一定割合の救急医療を実施していれば要件充足するので、それほど救急医療に傾倒した病院でなくても、これを満たして社会医療法人になっている。

またへき地医療で社会医療法人になっている法人も多いが、この「へき地基準」は自治体によって、審査基準の温度や受け取り方が多少異なる。北海道に、圧倒的に多い。

また(2)の医療計画に記載があるかどうか、については、実はたまに救急医療等をしっかりやっているのに、記載がない場合がある。これは行政との折衝等で、記載してもらうように働きかけて要件充足した例もある。

(3)の出資持分は、実は社会医療法人になる法人は、すでに出資を有していない場合が大半で、社会医療法人化を契機に持分なしになる例は、あまり多くない。いずれにしても、社会医療法人には全て、出資持分はない。

意外に、いままだ社会医療法人になっていない法人の中に、(5)の役員等の親族制限を満たせない医療法人がチラホラある。そういう法人は、親族を中心としたガバナンスを手放したくないわけだ。

しかし、親族経営的な社会医療法人もたくさんあるし、僕個人としては、早く社会医療法人になって、以下2のメリットを享受したほうが良いと思うのだが。

2 社会医療法人のメリット

①主たる業務にかかる法人税が非課税

②固定資産税、不動産取得税その他の地方税が非課税

③出資を有しない法人である必要があり、出資持分放棄を伴うことができる

④国から特別交付税等の(理論上の)財政措置が確保される

⑤一定割合で、医療法人が禁止されている収益業務を実施できる

⑥名実ともに公的病院となるので、ある面での社会的信用が向上する

⑦社会医療法人債が発行できること(実績は、ないのでないかな)

納税を気にせずに再投資できるというのは、民間団体としてはこれ以上ない魅力だ。

税務面以外にもメリットはあるが、やはり非課税部分の恩恵が一番だろう。

特別交付税等の財政措置は、国側の交付税に関する法令では手当されているのだが、実際にそれが個々の医療法人には行き渡らない「制度上のあや」がある。

僕も一時期、特別交付税の交付措置を受けるためのプロジェクトを立ち上げたことがあるが、現金で措置を受けている病院は、いまも少数派のようだ。

3 社会医療法人のデメリット

①上記1の要件を常に遵守し、またその遵守状況について行政監査を受ける状況にあること

②公認会計士による法定監査受入が必須となること

③社会医療法人の取り消し等に伴い、過去の利益に対して遡り課税があること

④その他

ということで、駆け足で社会医療法人制度を見てきた。

社会医療法人制度によって、民間であっても公益性が高い医療法人が、非課税等の恩恵を受けられるようになり、そのことで多くの地域医療が救われてきた実績がある。

厚労省の医療政策の中でも、数少ない「当り」政策であったと思う。

また、粗末な内容ながら平成29年度以降は法定監査も始まり、一応形式上の監督が働く格好となったことは歓迎したい(これ以上、この面で頑張る必要はないと思う)。

しかしそれでも、国公立の病院等は「非課税+補助金等バリバリ」の中で赤字経営を許容されている状況にあり、社会医療法人となっても、決して競争条件が等しくなるとまでは言えない。

また、僕自身がいま危惧しているのは、監査等が厳しい上に、親族経営が制限されていることで、「事業承継難による社会医療法人格の返上」が相次ぐのでないか、ということである。

もう、親族制限などは廃してしまってもよいのでないかと思うのだが、そこを変えると税制との関わりも出てくるので、簡単にはできない。

こうして色々制度的課題はあるが、とにかく基本的には政策意図に沿った政策的効果が得られている制度なので、微修正を重ねながら維持、継続されていくことを願うばかりである。

岸野康之 拝(本日重量 87.4㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))


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