税理士 岸野康之 事務所

医療機関専門
財務、経営、相続 アドバイザリー

開業医と勤務医(1)医師としての違いは

先日、友人と電話で話していた際に「Mずほ銀行がヒドイ」と憤っていた。

別の日にクライアントの事務長と話していた時も「M菱やM井は大丈夫、とにかくMずほに参ってる」と、やはり憤っていて。

そこに、昨日のATM停止の大ニュース。

昔からMずほ銀行は合併後の内部争いとか、システム共有の遅れとか言われていたが。

やはりいまも、厳しい内部情勢をいろいろ抱えているのかな。

さて、勤務医の方から。

開業医と勤務医の違い」ということについて、聞かれた。

そう聞かれると仕事柄、お金や経営など経済的側面が、が真っ先に思い浮かぶ感じがする。

ただ折角なので、経済的側面の手前の「医師として」どう違うかという点について、確認してみたい。

(以下、医師という場合は歯科医師を含むとご理解いただきたい)

1 医師法上の医師として

医師とは、医師法によると次のような存在だ。

第1条 「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする。」

第17条「医師でなければ、医業をなしてはならない。」

医師法では、医師に医療を任せるとともに、業としての医を、医師以外にさせないことを規定している。

この医師の立場としては、開業医も勤務医も全く変わらない。

第19条「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」

これも、開業医でも勤務医でも変わらない医師の義務で、これを「医師の応召義務」という。

ただ、勤務医は救急病院に24時間365日配置されている感じがするし、開業医は営業(診療)時間と休日が決まっている感じもする。

だからみんな等しい感じがしないが、この辺りの議論はまた別に取り扱いたい。

あとは、医師法の定めではないが、実は看護師法や薬剤師法など数多くの医療関係者の法律では、医師の指示によって行うべき行為を規定している。

つまり医療的な一定の行為は、看護師、薬剤師ほか医療資格者と言えど、医師の指示なしにできない。

こういった部分も、一見、院長と勤務医では権限が違いそうだが、医師として法で定めている機能、権限は変わらない。

2 保険医として

日本の医療の基礎は、みんなで保険料を支払って、それを疾病等を持つ人のために使うという相互扶助の考え方、国民皆保険である。

医師は医療ができる、というだけでなく、「保険医」として保険診療の内容(健康保険の請求の仕方)を決める権限がある。

だから、その腫瘍をメスで切るか、レーザーで切るかという医療措置の選択だけでなく、値段が異なる二つの方法のどちらを取るか、という価格の選択も担っているのである。

これを定める法令が「健康保険法」。

さらに実務の実則を定めているのが、

「保険医療機関及び保険医療養担当規則 略して 療担規則(「りょうたん」と呼ぶ)。」

自由診療等の分野は別として、我々が保険証を提示して医療を受ける「保険医療」を担当できるのは、「保険医である医師」だ。

そして、開業医も勤務医も、保険医であるという点について変わりはない。

ただしその「保険医」の医行為の結果、生じる保険請求(売上)を国と患者に請求するのは、「保険医療機関」である。

開業医は、医師一人の診療所であっても「保険医療機関」そのものとなるが、勤務医個人は保険医療機関として、国や患者に保険請求はできないという点が、大きな違いである。

だから、もしブラックジャックが医籍登録、保険医登録をして、立ち寄った病院で保険が利く手術をしても、(マンガのように)患者から「オペ代」はもらえないし、もちろん国に保険請求はできない。

立ち寄った病院(保険医療機関)が国と患者に請求して、ブラックジャックはその病院から日当をもらうことしかできないので、あまり格好良くない。

3 医療法上の存在として

医療法は、国の医療政策と、医療機関の組織などについて定めている。

我が国医療制度の、根幹を担う法律と言える。

開業医は、医療法上の「医療機関の開設者・管理者」となり、例え小規模でも巨大な大学病院と同じく、医療法上のルールに沿って、診療所などを運営していくことになる。

この医療法の世界に、いわゆる勤務医が登場することはない。

しかし、どこかの分院の院長などに任命されると、自分は勤務医(サラリーマン)だと思っていても「院長は医療法上の管理者」として、医療法で定める責任の主体者となる

そうなると職員たちの医療行為の管理などはもちろん、地域医療の担い手として、他院や行政との連携も行うこととなるので、サラリーを受取る立場ではあっても、勤務医とは法的な意味が違うこととなる。

ということで、まだ僕が知らない開業医と勤務医の違い、があるかもしれないが。

いま考えつくものを、ざっと並べてみた。

こうしてみると、患者に対する医行為だけに没頭して生きて行くならば、開業というのは、なかなか面倒に見える。

ただ、ここに「経営」「財務」「税金」などを加えて考えると、同じ面倒であっても、見え方が違ってくるように思う。

次回は、開業医と勤務医のお金や税金といった、経済的側面を書いてみたい。

岸野康之 拝(本日重量 87.0㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))


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