税理士 岸野康之 事務所

医療機関専門
財務、経営、相続 アドバイザリー

社会医療法人(2)遡り課税の仕組みと法令

アメリカにおけるコロナ死者数が50万人を超えた、との報。

これは、第二次世界大戦で亡くなったアメリカ人の総数を超える人数という。

そういう悲壮な空気の中にあるからか、初期の頃から、ワクチン待望論と接種開始後の米国内の安堵感は、我が国の比にならないという。

きっと、敵が何であっても。

抗う武器がまったくないのと、一つでもあるのと、では、雲泥の違いがあるのだろうな。

僕は、武器というのは・・・おっと、話が脱線し始めた。

今日は、法人税法における社会医療法人の遡り課税を、条文に沿って見てみたい。

条文は随所を独断で割愛・中略し、僕のコメントは赤字にしている。

法人税法 第十款 公益法人等が普通法人等に移行する場合の所得の金額の計算

第64条の4 公益法人等である内国法人が普通法人等に該当することとなつた場合には、その内国法人のその該当することとなつた日(「移行日」)前の収益事業以外の事業から生じた所得又は欠損の金額の累積額として計算した金額(「累積所得金額」「累積欠損金額」)に相当する金額は、当該内国法人の当該移行日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。

社会医療法人は、法人税法でいう別表第二の法人。

別表第二の法人とは、平たくいうと、本業が法人税非課税となる法人を列挙した表だ。

社会医療法人に限らず、この表に掲載されている法人が普通法人になったら、非課税期間に累積した利益は全部所得として、いっぺんに法人税を課すよ、ということを言っている。

【法人税法 別表第二】

https://www.city.maibara.lg.jp/material/files/group/32/22732392.pdf

なお、この別表第二には弁護士会や税理士会も入っているから、もし。。。

税理士会「もう国の言うこと聞かん、ワシら株式会社になるでー! 公益時代に貯めたゼニでやりたい放題や、ヒャッホー!」

国   「ほう。では創設以来何十年間に非課税だった利益、ぜーんぶ法人税を課税するぜ」

税理士会「ヘヒィ!そんなゼニはございません、やっぱり公益法人でがんばります!」

ということになる。

公益法人非課税の仕組みで蓄積した利益(カネ)を、普通法人になって自由に使うなんてとんでもない、という論理だ。

2 公益法人等を被合併法人とし、普通法人等である内国法人を合併法人とする適格合併が行われた場合には、当該被合併法人の当該適格合併前の収益事業以外の事業から生じた所得の金額の累積額として計算した金額又は欠損金額の累積額として計算した金額(「合併前累積所得金額」「合併前累積欠損金額」に相当する金額は、当該内国法人の当該適格合併の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。

この条文は、かなり鋭いことを普通に書いている。

要するに普通法人が公益法人等を、税制適格の形で吸収合併できると書いている。

課税させれば合併ができるのか?さらに累積欠損があったら持っていけるのか?

と色々考えさせる条文だが、これについてはたしかに公益法人等を吸収する合併が成立した大型事例がある。

そもそも公益法人である医療機関を普通の医療法人が吸収する局面がレアなのだが、数日前のブログで記した通り、我が国医療機関の開設主体が多種多様である以上、僕らはこの法的理屈を看過することはできないだろう。

出資持分がある法人、ない法人の間での合併可否と問題点、という古くて新しい課題もある。

僕にとっては、一層重要な実務的課題になる案件でもある。

ということで、遡り課税に関する条文を見てきたが、社会医療法人に限定しているわけではない、それを含む公益法人等の全般に関する法規である。だから広く普及しており、「一般社団法人(非営利型)」も、法律上は含まれていると読める。

その社団が真に非営利型要件を充足しているかどうかはともかく、一般社団法人の実務をする税理士、行政書士、ほか実務家や経営者はたくさんいるだろうから、アタマの隅に置いておきたい話である。

さて、実はこの法人税法第64条はまだ続きがあり、「公益認定を取り消された法人」「社会医療法人の認定を取り消された法人」の救済措置に話が及んでいく。

次回は公益要件を満たせなくなった場合など、の課税の有無、について見ていきたい。

岸野康之 拝  (本日重量 86.4㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))


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