税理士の仕事(8)情報と資料 法人編
さて前回、税務の仕事は「情報と資料」が集まってしまえば、あとは早いという趣旨のことを書いた。
そして前回は、相続税の場合と称して、具体的にはどんな風に集まりにくく、どういう工夫が必要かも書いてみた。
この辺りの状況は、個人事業やサラリーマンの確定申告の場合も、個人という点で似た構図である。
ところでこれが法人となって人間が多く介在し、さらに大法人となって組織(セクショナリズム)があると、また状況が変わってくる。
1 大病院、医療グループの場合
実は団体が大きいほうが、きっちり情報と資料が集約されていて、この点では進めやすい。
財務課とか経理課など帳簿組成を行う部署があると、そこに情報と資料の多くが集約されている。
ただしこういう団体では、経理現場は巨大な帳簿組成で手一杯で、意外な誤りに気付いていないことが多い。
また、見た目はそれなりに経理されていても、内実は長年不適正な会計処理が続いてきた、などということもある。
大きい法人などでは、情報と資料に基づいて作られた帳簿が「真に正しいか」という、監査段階が重要になってくる。
また、そもそも例えば資産取得は不動産契約などが、「誤った情報や資料」に基づいて経理されていないかの点検も、大切になる。
大きい団体は、大きさゆえにセクショナリズムがあるから、こちらも「組織のクセ」を掴んでおいて、不足資料やエビデンスをこちらから取りに行く関係を作っておきたい。
2 小規模病院、クリニック、中小企業の場合
(1)先方が経理を行う場合
規模が大きくなくても、先方サイドで経理関係を全て行っている場合は、いよいよ情報と資料は一ヶ所に集約される。
僕は経験的に、この規模で先方に経理能力がある場合は、いろいろな意味で「盲点」が出る、と考える。
クライアントから見ると、報酬を支払っている会計事務所を「物足りなく思う」場合が多い。
逆に会計事務所からすると、手数は少なくて済むし、税務会計をやるだけなら「ラクな関与先」だ。
そういう感じの中で、仕訳、科目コード、金額のズレの有無などはよく見ているが、「大論点を全員見逃している」ということが起こりうる。
言われるままに無意味な保険契約をしたり、借地で発生した相続に気付かなかったり、金融機関の借り換えのチャンスを逃したり。
目先の経理帳簿が作れるというだけで、誰も財務経理にアンテナを張っていないと、いつの間にか大変な財務状況になり、また税務論点の見逃しが出る。
僕は帳簿など、誰が作っても、その費用が多少高くても低くても構わないと思う。
肝心なのは、その数字を通じて「病院を生きた経営体」として捉えている人がいるかどうか、だ。
僕がセカンドオピニオンでご一緒する病院は、こういうところが多い。
そこでどんな活動をしているか、については、またいずれ書いてみたいと思う。
(2)経理を会計事務所に委託している場合
これは以前ブログにも書いた、帳簿を「記帳代行」に出している顧問先のことだ。
この場合でも、関与先の事務長や院長の奥さんなどが、情報と資料をしっかり整理していれば、どちらが記帳しようが何の問題もない。
よく、記帳代行業務を否定したり、時代遅れ的に言う人がいる。
しかし、クライアントと会計事務所がしっかり協力関係にあり、資料→記帳→報告 の流れが確立していれば、実は、一番監査的な見逃しがないスタイルである。
プロである(はずの)会計事務所が原始資料を全部点検して、記帳するわけだから、税務論点の抽出や決算も、スムーズに済む。
良くない記帳代行は、ダンピングにより低報酬・低サービスに陥っている場合で、それは関係者全員にとって不幸である。
その状態が「まずい」と気付いたら、すぐ状況を改善すべきことをお勧めしたい。
逆に、そういう確かな流れがなく、いつも資料探しでドタバタしているクライアント、というのも全国的には多い。
そうしたゴチャっとしたクライアントは、会計事務所全般として「(すぐやめる)新人職員などに割り当てられがち」だから、ずっとゴチャっとしたままになる。
幸い、当事務所は全案件が僕の専管か、僕と職員の共同管理なので、そういう事案は一件もない(キリッ)。
ということで、法人は人が多くて規模が大きいので、「比較的」情報と資料は集中している。
しかし「法人はこうです」と言えるものは全く無い、法人によるクセは多種多様だ。
僕ら会計事務所は、そのクセとともにクライアントを把握する必要があるし、双方少ない負担で確実な税務会計に導く義務がある。
そういうリレーションの先に、有益な情報提供とかコンサルテーションといった高次の、本当に面白い仕事があると思う。
明日からは、いよいよ「税務」そのもののお話をしていきたいと思う。
(僕は外堀から埋める論法になりがちである)
岸野康之 拝
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