税理士 岸野康之 事務所

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税理士の仕事(4)記帳代行はいま

いま、世間では税理士の仕事についていろいろ言われている。

「顧問料が安い、価格破壊が進んだ分野」

「AIに取って代わられる仕事の一つ」

「IT技術の進展で、消滅する仕事になる」

などなど、マスコミや他業種の方々からは、いろいろなご意見が聞かれる。

その辺りの意見の中心には、常に「記帳代行」という業務の存在がある。

今日は、そこにクローズアップしてみよう。

1 記帳代行のダンピング

前回書いたが、会計ソフトが発達したために、ソフト上できっちり記帳ができたら、あとはボチボチ決算書などが作れるようになった。

記帳がデジタルでできれば、いくらでも修正や再集計ができるので、そういう点でも「特殊技能」までは求められない時代になった。

つまり記帳は、電卓打ちやワープロと同等の職能となり、ネット世界には「記帳代行 一月9,800円~」などと広告が踊るようになった。

しかし、いかに短時間で終わる仕事でも、労働集約型産業の会計事務所が、9,800円/月で業務を請け負うのは、僕の感覚では非効率なダンピングの極みだ。

もちろん、量や年商で価格は変わるようだが、とにかくそこに、低価格競争が起こっている。

2 記帳すら要しない帳簿作成の登場

記帳の価格が、安い時代になっただけではない。

例えば、銀行データやExcelデータをそのまま会計ソフトにインポートすれば、「記帳すらしないで帳簿が組成される

DX、金融工学の会計版とかフィンテックなどと言われていて、僕のお客さんでも大きいところでは、フル活用している。

預金通帳の中身は、銀行から来るネットバンキングデータを落とし込む。

現場の小口現金や出納帳などは、Excelで作っておけばCSVで吸い込める。

小さい企業体だと、レシートや請求書などのスキャンデータから、そのまま帳簿が組成されていく。

記帳という言葉が古くなり、記帳の行為が不要な面があるほどだから、その記帳を代行する意味も、相当変わってきている。

3 消滅する記帳代行と、残っていく記帳代行(僕の主観的な意見)

(1)もともと記帳代行には縁がない(経理機能がある)団体

上記2のような技術環境にあるから、これまで大変な労力で「自社内で」記帳していた大企業や組織では、記帳作業は激減した。

記帳データを吸い込んでチェックで修正し、必要な手作業などだけを分担して、実施するようになっていった。

ブラインドタッチ(古い)でバリバリ入力していた人が、とりあえずアラアラで記帳されたデータの修正、整理の仕事をするようになった。

ただ、僕が監査で出入りする大きい病院はこのスタイルだが、それはそれで漏れなくチェックするのは、結構大変だ。

そのため、経理課内のチェックと当事務所によるチェックの二重体制で、漏れなく点検されるようにしている。

(2)記帳代行→自社内記帳へ

よく金融パーソンやコンサルタントという業種の人が、「記帳代行は古い、失われていく」と言っている。

しかしそれは、「昔ながらのブラインドタッチ(古い)でバリバリ」スタイルが減るだけで、記帳の代行そのものは増えている気がする。

理由は簡単で、フィンテックスタイルの会計事務所に丸投げしたほうが、ラクだからだ。

従来、ある程度、企業側で手書き帳簿をアレコレしないと、会計事務所の記帳代行を依頼できなかった。

それはクライアント側にも会計事務所にも面倒くさいことで、一時期は「自計化」と称して、企業側・クライアント側で記帳させる流れにあった。

しかし「自計化」は、クライアント側に記帳人員や会計ソフトが必要で、ある程度規模がないと、経理体制を作れなかった。

(3)再び、自社内記帳→記帳代行へ

今はメール、Excel、パスワードのやり取りで、データを会計事務所に送れば、会計事務所も少ない労力で帳簿を作り上げることができる。

クライアント側に、再び「自計化する意味がなくなって」来て、クライアントと会計事務所で帳簿作成を上手に分担する時代になってきた。

因みに当事務所でも、記帳代行する案件は、普通に何件かある。

先日は、少し大きめの医療法人さんが、「帳簿作りまでお願いしたい」と仰っていたので、お引き受けした。

昔ながらの記帳もするし、Excel取込みなどを駆使した記帳も組み合わせるので、大した労力ではない。

かつて医療専門で有名な青木恵一税理士が「記帳代行は減らすが、無くさない。記帳させないと若手が育たない」と言っていた。

これは全く同感で、帳簿組成の経験がないと、要点も手の抜き方も分からないし、組織の成長に合わせて帳簿組織を育てられない。

僕は修業時代、拠点数が多い大組織の記帳代行を一人でやっていたから、いまクライアントの経理課職員たちと議論、仕事がしやすい。

というわけで、記帳という行為を実施する場面は、今後も省力化されて減っていくだろう。

しかし、AIやフィンテックによる記帳を監査・修正し、帳簿組織を完成させるのは人間だ。

記帳代行が古いか新しいか、などどちらでも良い話で、適正な帳簿組織の完成という結果にフォーカスして、最適な実務を行っていくべきである。

さて、次回はその「現代の記帳」にみられる落とし穴について、説明しておきたいと思う。

岸野康之 拝(本日重量  85.1㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))


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