税務調査(5)調査の先輩たち
ブログを書いていく中で、自分がどのように税務調査について学び、誰を見本として今日に至っているか。
ずっと忘れていたことを、だんだん思い出してきた。
1 O会計士(勤務時の所長さん)
O会計士は医療界の名物男であるが、とにかくレベル違いに仕事ができる、腕で名を成した方であった。
街のチンピラ同士のケンカからのし上がって、全国区の組看板を立てたヤクザの親分みたいな感じで、とにかく、勝負に強い。
勤務時代の数年間、彼と二人で全国の病院を行脚し、彼の腕から学び、時に彼の腕として活動したことは、代えがたい黄金の修業時間であった。
(なお一緒に行脚したのは、税務の仕事ではなく、主に公立病院向けコンサルの仕事である)
さて、その彼の税務調査立ち合いは、とにかく合理的である。
ムダな駆け引きなど極力しないし、腹の探り合いなどには、できるだけ時間を割かない。
「はい、どこに目を付けたの。さあ、全部出して出して」
と、調査官に、全部カードを出させる。
まるで、「こちら側が調査をする側であるみたい」な、感覚に陥る。
調査官もしっかり追徴課税を持ち帰りたいが、同時に、さっさと片付けたい気持ちもあるから、そういう流れはまんざらでない。
で、論点が出揃ったら、一つずつ片付けていくのである。
世にある「税務調査対策」のノウハウと一線を画す、独特のものなのだと思うが、僕はO会計士の手法はとても参考になっている。
2 Y税理士(勤務時代の先輩)
とにかく、交渉ごとに強い方で、どこまでもどこまでも交渉をしていく。
こちらが正しいものは、徹底的に貫く。
こちらが微妙なものは、これも徹底的に貫く。
明らかなミスや誤りがあったときは、それも交渉する。
他に様々な、ここで書くことは憚られる、斬新な方法論も駆使される。
僕は、そのままマネはできないのだが、少しマネをさせていただいている。
実は適切なノウハウや知識を備えた上で、このスタイルがあれば、最高の成果を発揮できるのだと思う。
3 I氏(某病院の事務長)
この方は国税局に勤務されたのちに地元に帰り、病院事務長になったという、変り種の方である。
何度かご一緒したことがあり、時々お目にかかるたびに「これはどう思いますか」と、いろいろな見解を頂戴してきた。
勤務税理士時代の後半は、税務調査対応にも慣れて、勢い先行型で結構ゴリゴリとやっていた。
あるとき I氏に、税務調査における様々な論点と私の対応について、お話申し上げたところ。
「キシノさん、そりゃーゴリ押しまくってますね。ゴリ押し頼みすぎですよ、あはは」
と、軽く笑われてしまった。
当時は、それで通っているのだからイイんじゃない? と思っていたが。
確かにあとで思うと、10個の論点があったら、8個くらいはゴリゴリ押しだった気がする。
「税務調査で戦っている感じ」な自分に、ちょっと酔えるようになってきた、というのもあっただろうな。
でも、ゴリ押すよりも、もっとイイ方法がいろいろあると、だんだん分かってきた。
そのときの I氏との対話は印象深く心に残っており、それ以降、何事においてもゴリ押しは「最後の手」くらいに考えるようにした。
いまは税務調査の実務方法について、情報がやまほどあるから、それらを勉強しながら場数を踏めば、結構しっかり対応できる。
ただ、理屈や実務各論だけではない、現場において最善の結果を導く上で、僕にとって上記3先輩からの学びは極めて意義深いものがある。
僕の税務調査シリーズは、読んでも「すげえ」みたいなものはないが。
自分で書いていて面白いので、もう少し書いてみようと思う。
岸野康之 拝
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