確定申告の季節だから(5)医師の確定申告 おさらい
いま、日本には医師が32.7万人、歯科医師が10.5万人(平成30年調べ)いる。
このうちの全員とはいわず、そこそこの数の人たちが確定申告をしていると思われる。
今回、この機会に医師に向けて、確定申告についておさらいをしてみよう。
1 確定申告が必要な人
(1)事業所得や不動産所得がある人(開業医など)
(2)給与所得者で、給与の年間収入が2000万円を超える人
(3)給与の支払を受けていて、他に給与・退職所得以外の所得が20万円を超える人
(4)同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受取っている人
(5)退職所得の税額が源泉徴収された金額より多くなる人
(6)その他・・・
例えば「収入と所得」「支出と経費」など、ちょっと言葉が違うだけで上記(1)~(6)の扱いが変わってくる。
その辺りを思うと、もしかしたら・・・という人は、申告が必要かどうかの判定を、税理士にしてもらった方がいい。
2 確定申告が必要ではないが、した方がいい人
(1)年の中途で退職して、その後、年末調整を受けていない人
(2)住宅ローン控除を初めて受けようとする人
(3)非常勤等で、複数の職場で給与を受けている人
(4)多額の医療費を支出した人(医療費控除)
(5)ふるさと納税ほか、特定の寄付をした人
(6)年末調整に載せ損ねた項目がある人
この「した方がいい人」は、申告することで納める税金が減ったり、源泉徴収された税金が還付されたりする。
還付を受けたい人の申告期限は、5年間と長いので、「あ、去年もしかしたら・・・」と思い出した人なども、すぐ申告することを検討されたい。
3 特に医師が気を付けたいこと
(1)勤務医が非常勤バイトをしていれば、還付になる場合が多い。
そう、バイトや副業の給料は、普通より高額の源泉徴収で税金が引かれているので、勤務医が他に1、2か所バイトをしている場合は、還付を検討されると良い。
(2)給料を「事業所得」で申告しないこと。
「勤務する病院が『給料でなく報酬で支給』してくれたら、事業所得で確定申告していいですか」
こういう相談を、昔からチョコチョコお聞きする。
他のすでにそうしている医師から聞く、ということが多いようだ。
事業所得として申告すると、
「飲み代ほか、経費を入れられるので税金が少なくなる」
「事業の赤字を、他のところの給与所得などと相殺(して還付が)できる」
など、一見メリットがある。
しかし、事業と呼ぶべき実態がなければ税務署に否認される。
税務署のシステムは細かいので、おかしいものはアラートに引っかかってくる。
「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」
この事業の定義に該当しないものは、事業所得には該当しないということを、確認していただきたい。
(3)ある年収を超えると制限がかかる仕組み
・住宅ローン控除は、合計所得金額が3000万円を超えると使えない。
・基礎控除は、合計所得金額が2500万円を超えると使えない。
・配偶者控除は、納税者本人の合計所得金額が1000万円を超えると使えない。
・「給与所得控除」は、給与収入が850万円を超えると195万円定額となる。
他にも年収が1000万円を超えると〇〇手当が出ないとか、△△無償化が使えないとか、税制以外にも収入でキャップがかかる制度はいろいろある。
(4)基本的な話、日本の税制は所得がある個人に厳しい
そもそも、実は会社など法人に係る「法人税」は、企業の国際競争力確保のために、年々税率が下がってきている。それに対して個人所得税は、税率も様々な仕組みも、年々上がっていく一方だ。
国は、法人を優遇して個人に厳しくしてきている。
特に年収1000万円近くから上の、比較的富裕層には年々厳しさが増している。
「なぜ個人ばかり厳しいのか?」は考えても仕方がないことで。
個人での重税感に不満があるなら、次のいずれかで対処するしかないだろう。
・それを超えるほど稼ぐか
・お得な(重税感を感じない)水準まで収入を下げるか
・法人代表となって税の工夫の余地を広げるか
・その他
と、医師の皆さんに気にして欲しいことを、ざっと書いてみた。
勤務医である医師について、「医師だからこの節税が使える」という手が、そうあるわけではない。
しかし医師は税率が高い人が多いから、一つ一つの節税の効き方が、全然違う。
同じ、10万円の所得を減らした場合。
年収200万円の人なら5,000円の減税効果だが、年収2000万円の人なら40,000円の減税効果だ。
ぜひ、正攻法でコツコツ、できる節税策をしっかり取っていただきたいと思う。
岸野康之 拝(本日重量 86.9㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
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