税理士 岸野康之 事務所

医療機関専門
財務、経営、相続 アドバイザリー

病院等の機能(5)医療政策上の官民イコールフッティング

前回まで、国の医療政策が引き金となって、各地の地域医療に甚大な影響があったことを、お話してきた。

一方で、ただ「量的に」医療供給を増やすばかりの戦後医療政策から、限られた財源と医療資源を、効率的に割り振るための、様々な試みもあった。

厚労省の医療政策には随所疑問があるが、必要に応じて進展した医療政策もあった。

1 国が考える必要な医療

医療法の歴史については、いずれ別のときにお話したいが。

平成19年の改正医療法は、医療供給の量的拡大を志向してきた我が国の医療制度にとって、一定のターニングポイントであったと思う。

まず、「5疾病5事業&在宅医療(当初は4疾病5事業)」という医療体制を中心とした医療計画の策定をスタートさせた。

【5疾病】

・がん

・脳卒中

・急性心筋梗塞

・糖尿病

・精神疾患(後に追加)

【5事業】

・救急医療

・災害時における医療

・へき地の医療

・周産期医療

・小児救急医療など

もちろん、このような題目を唱えたからといって、その分野の医療が強化されるわけではない。

あくまで、その分野の医師が増えたり、医療体制が強化されなければ、こんな医療計画は絵に描いた餅である。

それでも、僕のような事務屋は、これを見て「ああ、国として必要な医療、これから求められる医療はこの辺なのか」と、目に見えて分かる。

そういうことを、医療目線でなく、政策目線で示したという点は、非常に分かりやすくなっていると思う。

実際に、特に5事業については、その5事業への取り組みを評価する税制も誕生し、医療会計を扱う僕ら会計人の重要テーマになった。

2 官民のイコールフッティング

ところで、日本の医療制度は、誰かが取り決めたわけでもなく、長らく次のようにジャンル分けされてきた。

・国公立と公的医療機関  非課税+補助金あり

・(民間)医療法人     課税+補助金なし

同じような質の医療を低コストで提供していても、「公」の名があるだけで、税制・資金で優遇されてきていたのだ。

しかし、公的役割を担って地域医療を守ってきた民間医療機関、逆に地域医療への対応力を喪失している国公立病院など、内実は様々だ。

そういうことが、目に見えて明らかになったのが、その平成16年~20年前後の医療制度改正が相次いだ時期である。

そこで、医療機能が低下した国公立病院に構造改革を促し、優れた民間医療法人などは税制面、補助金等で優遇する動きが制度化されていった。

折しも、政治的にはポスト小泉政権の流れで行財政改革が引き続いてきた時期であり、経済的にはリーマンショック前後であった。

この一連の動きは、諸分野において「官民のイコールフッティング」と呼ばれている。

3 公的医療をめぐる動き

民間の医療法人制度については、以前ブログで書いてきたように、平成19年から「社会医療法人制度」が始まった。

従前、医療法人に収益事業を解禁した「特別医療法人」という冴えない、不人気な法人制度があったが、これを廃止・代替する形で社会医療法人が誕生した。

法令が発表されるまで、「税率は22%軽減税率でないか」と大した期待をされていなかったが、出てみれば「(ほぼ)完全非課税」の内容だったので、我々の業界は大騒ぎになったものだ。

社会医療法人の詳細は、以前ブログで数回書いたので割愛するが、現在300法人超が非課税団体として、公益性が高い医療を担っている。

一方、その医療崩壊の流れの中で経営難に陥る公立病院が続出、平成19年前後から公立病院改革が進展した。

これは厚労省による医療制度の改革というより、総務省主導による行財政改革の一環であり、小泉改革による市町村合併やリーマン後の税収難とも大いに関係している。

この改革の流れは今もまだ着々と進んでおり、僕も現在、いくつかの公立病院で多様な業務に携わっている。

公立病院のこうした動きは、超簡単にいうと民営化といえるのだが、単純な民営化ではない。

微妙に企業色を入れる方法、いわゆる独立行政法人化、公設民営による民営委託、自治体間紛争の解決など、様々な手法がある。

いずれにしても、戦後の議会民主主義を基礎とした「病院ー議会ー行政」という三者関係による公立病院経営が制度疲労を起こしており、地域ごとに最適な形に是正する必要があったのである。

公立病院改革については、残念だが実務をしたことがない「評論家」の方々が、おかしな意見でミスリードする場面をよく見かける。

僕自身が現場で格闘してきた実務経験や制度的所見を、いずれブログで、連続的に書いてみたいと思う。

ともかく戦後の医療体制(医療秩序)を、国は、自ら崩すとともに、公的医療における官・民の役割の見直しを推し進めたのである。

良くても悪くても事態は大きく動き、15年を経て今日に至っている。

この後は、ここ数年の医療制度について見ていきたいと思う。

しかし、その話をするためには、「医療法改正」「診療報酬改正」「介護保険制度」についての、基本的な流れを押さえていかねばならない。

そこで次回からは、医療法の成立と医療法改正について、僕自身の復習を兼ねてお話してみたい。

・・・と考えたが、まだ確定申告のお客様が数件残っている(期日4月15日)ので、明日から少し、「個人確定申告」の話題にしたいと思う。

岸野康之 拝(本日重量 87.1㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))

→ 週末に、リバウンドする傾向にある・・・


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