税理士 岸野康之 事務所

医療機関専門
財務、経営、相続 アドバイザリー

民間医療機関の世界(1)同族経営が多い事情

理事長、副理事長、関連団体のトップ、社員、理事、などみんな同族という医療機関は多い。

そもそも、日本の民間医療制度そのものが、(僕の私見では)次のような部分から、同族経営を前提として成立している見て取れる。

(1)社員制度

厚労省は医療法人に「非営利性」を徹底させたいので、近年、役員の責任と権限や利益背反の追及などを強化している。

医療法改正の都度に、理事や監事、理事会そして医療法上の提出書類などを通じ、ガバナンス整備を浸透させようとしてきている。

しかし、役員制度はいろいろ動かすのだが、「社員制度」にはほぼノータッチである。

平成28年度の医療法改正と併行して行われた社会福祉法改正では、ズタズタになる社福が出るほど、評議員、役員制度にメスを入れた。

しかし、医療法人制度では「同族社員による統治」という点には、一切触れないで改正を終えたのである。

(2)医師による経営を前提とした法律

医療法では、院長(管理者)が医師であることはもちろん、医療法人の理事長も原則は医師、とされている。

これには非医師理事長の規定や、医療法人以外の法人の理事長など、いくつか例外はあるが。

ともかく医師でなければ経営ができない法律である、ということは、「事業承継」のときの最大のキーになる

普通の民間病院、クリニックであれば、簡単にどこかから継承者を連れてくることはできない。

医師の事業承継をマッチングさせる仕組みはあちこちにあるが、目先の条件は折り合っても、その場所で地域医療に身を捧げる医師を連れてくるのは、容易ではない。

そうなると、同族から医師を輩出するのが自然であり、手っ取り早く、一族の財産保全の面から見ても安心である。

そういう法律と開業医たちのマネジメントがあるから、厚労省がどれだけ「非営利性」を叫んでも、医療機関の同族経営は、簡単に揺らがない。

(3)社員と出資 ~制度設計の誤謬(かな)~

実は医療機関の経営陣も、誤って理解されている方が多いのが、この「社員と出資」という論点だ。

医療法人などを作った時は、たいてい、最高意思決定機関である社員総会の、構成員である社員が「出資する」。

ただ社員が3人いても、うち一人だけ出資している、ということも多く、その時点ですでに「社員=出資者」ではない

そう、ここが株式会社と全く違う点だ。

会社では、株を持てば持つほど強い株主となり、株がなければ発言権はない。

しかし医療法人などでは、出資していなくても「社員は一人一票」持っているし、山ほど出資した社員もまた、一票しか持てない。

さて時が流れて、出資した社員に「相続」が発生し、医療経営とは無関係な人たちが出資を持つようになることもある。

そして「社員のだれも、出資を持っていない」という、おかしな状況が発生することがある。

それでも、社員が存在していれば、出資者がいなくても経営は成立してしまう

ところが余談だが、国は決して一番最初から「社員と出資者は違う」前提で、制度設計したわけでないようだ。

例えば定款を読むと、「社員は・・・出資の払い戻しを請求できる」などと記載がある。

法形式の部分では、社員と出資者は一応イコールである、という前提で制度を作った節があるのだが、現実は合致していない。

経営権と財産権が分離されているが故に、安定が保てている面はあるが、逆に出資の買取請求など、不安定さをはらんでいる面もある。

僕は、そのように制度がねじれた原因は、医療法成立の昭和23年当時の制度設計と、医療機関の公的役割が注目されはじめた昭和40年頃の、政治介入にある気がしている。

これは特定医療法人制度の成立と併せて、別に書いてみたい論点だ。

(4)現・認定医療法人制度に見る「同族組織の容認」

相続税法をはじめとする国税の法律では、役員に占める親族の割合が「1/3以下か、否か」を、公益性の判定基準の一つとしている。

厚労省ではそれを準用、援用して社会医療法人、特定医療法人など各種医療法人制度の制度設計をしている。

だから親族役員が1/3を超えていると、社会医療法人や特定医療法人には、組織替えできない。

ところで6年前にスタートした「認定医療法人制度」は、出資の相続税問題を解決する決定版としてリリースされたが、大変不人気であった。

不人気の最たる理由は、上述の「役員に占める親族割合」を満たす必要がある点であった。

しかし、税法が「公益性ある団体には税を課さないよ」と言っているわけだから、そこは仕方ないのかと思うのだが・・・

国は、3年前の「認定医療法人制度・リニューアル」に際しては、この親族制限を撤廃したのである。

つまり同族経営で、その点で公益性とは程遠くても、税は免除できるようにするということになったのである。

この裏側で、国税庁、厚労省、医師会などの間でどんな綱引き、妥協があったのかは分からない。

しかし僕は、この件は国が「医療法人は同族経営が前提である」という公然の事実を、制度的に容認した瞬間であったと思っている。

ともあれ、民間医療機関は同族経営が多い。

医科大学であっても、オーナーは一族である場合が多い。

このことは平素の医療政策を考える上では、役人も我ら民間人も、常に脳裏に置いておくべき事項であると思う。

明日は、民間医療機関の「事務長」について確認してみたいと思う。

岸野康之 拝(本日重量 85.9㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))


TOP