税理士 岸野康之 事務所

医療機関専門
財務、経営、相続 アドバイザリー

医療と寄付金(5)地方公共団体と寄付講座

昨日、大企業の賃上げ記事の話に言及したが、その記事の流れで「日本型雇用システムの限界」が強調されていた。

これは数十年続いている議論で、いまだから限界、という話ではない。

僕の実感としては、小規模企業の世界やIT系など新興産業の世界では、すでに旧来の日本型雇用システムは相当変化してきている。

銀行なども、すでに50歳前定年制と言われるほど、雇用システムを堅持しつつ内情はシビアだ(銀行は他に問題が山ほどある)。

変わらないのは、存外に強い重厚長大産業、国策に近い産業、そして公務員である。

現在、国の出方やコロナウィルスそのものの話で持ちきりだが、その足元で動く経済事象を冷静に見直すには、格好の時期ともいえる。

ぜひ、日本型システムで真に改革すべきものは何か、その改革により何を作り出すのか、議論が進むことを願いたい。

今日は、国、自治体、そして寄付講座について見ていこう。

1 地方公共団体から国等(国立大学法人などを含む)への寄付、かつての取扱い

かつては、地方公共団体が、国や国立大学法人に寄付をすることは、「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」によって禁じられていた。

確かに民間人の感覚でいえば、我々が地元に納めた地方税の税収を、国に寄付するという、非常にオカシイ状況に見える。

僕の最初にこの辺りの話を聞いたときは、「官官接待(〇パンしゃぶしゃぶ)」などを思い出したものだ。

実際に、国が地方に「寄付をさせる」的な地位の乱用や、逆に地方が国の事業誘致のために国に寄付するというような、公共体同士の寄付が頻発したために、財政規律確保の観点から、その寄付を禁ずる法律ができたと言われている。

2 東北における医学部寄付講座に関する訴訟

ところで、平成16年に釜石市、石巻市、塩釜市が(国立大学法人である)東北大学の医局や教授に寄付をしていたことが違法だとして、オンブズマンから住民訴訟が起こされた。

当時、僕は1年間、コンサル一年生として宮城県内の病院再生事案に取り掛かっていたので、本件訴訟の行方は大変気になっていた。

(なぜ会計事務所に入った税理士受験生が、病院コンサルを!? と、大変疑問に思いながらも、意外にハマり込んでいた)

この訴訟の経過で驚いたのは、次の点であった。

・各市が「派遣医師の確保のために寄付をしている」と明言していること

・そして大学医局側も「それを承知して寄付金を受領していた」としていること

実は当時、医師確保の寄付講座というと、公共・民間の別を問わず、どこか「後ろ暗い」感じのイメージが持たれていた。

そのイメージ感は、寄付というより袖の下に近い感覚があったのかもしれない。

しかしながら、本件訴訟は一審は原告勝訴であったものの、高裁は原告の請求を退けた。

これは、法律云々も去ることながら、結局、地方の医師確保事情がそれだけ厳しい状況にあることを示している。

そして、裁判所が「その寄付金は、医師を派遣してもらうための対価だよね」と認めたという、何だか不思議な感覚も残った。

3 禁止条文の廃止 ~寄付が、原則可能に~

結局、実態的には全国で行われていたということ、上記2のような司法判断まで出たということなども手伝い、平成23年11月付けで法改正が行われた。

これにより、地方公共団体→国等への寄付の原則禁止が廃止されて、地方公共団体は建前がしっかりしたものであれば、国立大学法人等の寄付講座への寄付が、原則自由となった。

そのため、いまは全国の国立大学法人のホームページを見ると、「〇県の寄付でいくらいただき、△△講座をやっています」とオープンにされている。

【国立大学法人 浜松医科大学ホームページ】

https://www.hama-med.ac.jp/about-us/disclosure-info/kifuukeire.html

「医療と寄付金」をテーマにしたお話は、今日で終わりにしようと思う。

この一連の話を通して、国公立・民間のいずれも、医師を確保するということに大変な知恵とお金を使っている、ということを伝えたかった。

この辺りに関連して、僕はいつも「おらが街に病院を、おらが街に産婦人科を」と平気で仰る市町村議員の皆様に、「安易なことを言うものではない」と、声を大にして言いたい

地域の医療地図を理解せずに、小さな権力者たちが病院欲しいなどと言えば、そこには必ず「医師確保」「医師の奪い合い」が発生する。

街の医療政策においては、それこそ地元をよく知る地方議員にしかできない、いま現状の中ですべきことが山ほどある

いずれそういう、地域ごとの医療政策各論についても、取り上げていきたいと思う。

岸野康之 拝(本日重量  ㎏(着衣)  2021年2月21日 89.3㎏(着衣))


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