医療コンサル(11)医療と福祉 人的構造
16年前に、通っている専門学校が近いという理由だけで、勤務を始めた会計事務所。
そこが医療専門の会計事務所だったのだが、医療を取扱っていると、自ずと「福祉」「介護」などが付随してくる。
だから今でも、「医療福祉がご専門ですよね?」と問われる機会が多いわけであるが。
今回は、医療福祉の人的構造について、触れてみようと思う。
僕は医療を説明するときに、まずその「人的構造」に着目する。
医療の世界は、医師を中心とした有資格者が構成する世界である。
医師・歯科医師は別格というところがあるが、それを中心に、看護師、薬剤師、技師その他、多くの医療資格者が登場する。
よく言えば職能チームだが、見方を変えると、医師を頂点としたピラミッド、ヒエラルキーの世界だ。
だから、僕は一歩医療機関に足を踏み入れたら、言葉の使い方、人の心持ちなど、この構造に対して非常に敏感になる。
全然えらぶらない人もいれば、僕のような事務屋を見るだけで、「ふんっ」という雰囲気になる人もいる。
だから、エライ方々だから気を付けるような意味合いではなく、皆さんが履いている「心のゲタ」の高さのようなものに、気を付けている。
ところで福祉の世界では、この辺りの人的構造が違う。
例えば、特別養護老人ホームを経営する社会福祉法人で見ると、トップが医師とか決まっているわけではない。
そして、こちらも有資格者の集団であるが、配置の必要上から看護師がいるものの、あとは介護福祉士とその補助が大半を占める。
だから、際立って高いゲタをはいている人もいないし、職場としても横並び感がある。
さて、その医療と福祉の人的な構造の違いが、何を意味するか。
僕は、とにかく医療の世界は複雑に形成されていると、常々感じている。
医療の世界では、「医師が一番えらい」というムード的な問題ではなく、医師が存在しないと医療機関は存立できないのである。
技術と志に優れた看護師と薬剤師が何百人いても、医師数名がいなければ、病院又は診療所は存立できない。
さて、それでは医師をガンバって集めたとして、今度は一定数の看護師がいなければ、入院患者に入ってもらうことができない。
ところが一定数の看護師が入院患者を診ると、本来は薬剤師が病棟薬剤を管理するべき、という議論が出てくる。
そんなワガママな人員配置を揃えた頃に、人気医師が医局の都合で引き上げて、血眼になって次の医師を探す・・・
そんな感じの、複雑な世界を上手に統制しようと、事務長(やボク)などが出陣すると、医療を知らないくせに~とボコボコになる。
また、そこには医師の世界、看護師の世界、その他医療職の世界ごとの、給与水準や文化など異なる世界観があるから、より複雑だ。
しかし、僕は医療から入っているし、お付き合いの深度も圧倒的に医療機関が多いので、医療の構造のほうがカラダに馴染んでいる。
まず組織図を見て、医師がいて看護師がいて・・・という構造を確認すると、「いつものやつだな」と安心する。
その点で言うと、福祉の世界は構造としてはよりシンプルである。
福祉の世界でも、介護士不足は深刻で簡単という話ではないが、構造的にシンプルなので本題に入りやすい。
ただ、本題に入りやすいということは、議論がシフトとか入所者ケアの技法とか、介護そのものが本題になるので、僕など事務屋には難しい。
医療の世界でも当然、医療技術が最重要なのだが、それを取り巻く複雑な環境に対して、僕ら事務屋が貢献すべきことが山ほどある。
医療行為以外に、かなり多くの問題を解決しないと、医療機関を存立させることは難しいのだ。
そんな医療と福祉の人的構造の違い、ぜひ気にしながら見ていていただきたい。
岸野康之 拝
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