税理士の仕事(9)租税法律主義、申告納税制度
税理士の役割を、税という観点から定義してみよう。
1 国の徴税権と税理士の役割
国は「徴税権」を駆使して、国民たちから税を取り立てる。
ところで、いまでこそ集めた税は国民生活のために使うことになっているが、近世に至るまでの古代国家では、税は政権・王朝貴族の維持のために使われていた。
その実現のために社会インフラを作り、国民の生活環境を作ることはあっても、民主主義的な税の用途が登場するのは、ここ最近の話である。
昔の税が必ずしもあらゆる局面で、国民から搾り取っていたわけではないが、最終的な徴税権は国にあるので、国が「いま足りない」と思ったら、そこが取り時である。
今の租税制度は、民主主義的な市民生活と併行して存していないといけないので、徴税権の行使という局面は少ない。
しかし徴税権はあくまで国側にあるので、国が本気で徴税しようとしたら、国権で差押え、逮捕、徴収が、なんでもできることになる。
それはいかんということで、憲法では「租税法律主義」を掲げている。
租税法律主義とは、税金の課税は法律に定められた方法、手続、金額で行われるべきことを定めた法律であり、そこに国の恣意性が介入してはならないとする考え方である。
さて、その租税法律主義を遵守すべき存在として期待されるのは、税理士である。
税理士は、決して国が言う通りの税金計算をすべく派遣された、税務署のポチではない。
憲法に定める租税法律主義に従い、あらゆる税関係の取引について、ある程度適切に導き出す存在である。
すなわち税理士は、国が有する巨大な徴税権に対して、租税徴収が「法律に基づいて」行われていることを確認して、納税者を手助けする存在である。
その一環として、税務の代理申告や会計帳簿の組成などの役割を扶養されているのである。
2 申告納税制度
もう一つ、日本の税に関する法律は「申告納税制度」を基礎としている。
これは、納税者が「この金額です」と計算した通りに税金を納めることを、大前提とした法律だ。
しかし、複雑な税金の法律に沿って、個々の納税者が完全に税金を計算し、納税することはとても困難である。
そこで、税理士はその税務計算を代行などして、納税者の申告納税を援助する役割を与えられているのである。
よく「税理士は納税者を守ってナンボ」「納税者を守るのが税理士の役割」という論調があるが、決して納税者を守ってナンボではない。
それは結果的に納税者を守るべき立場にあっても、本来、求められているのは、申告納税制度を支えるべき役割である。
ただし、それだからといって、税理士は国のポチであるわけでない。
民間人として、租税法律主義に沿って租税制度の公正な運用を守り、納税者を公正な立場で代理することで、申告納税制度を支える立場でもある。
自分で計算した税金を納めれば申告納税が完結する、という税金の仕組みは、実はかけがえがなく民主主義的で尊い制度である、というのは、僕が常々感じるところである。
さて、こうした租税の根本的な考え方に基づいて、次回からは税理士業務の各論に触れていこうと思う(寄り道しながら)。
岸野康之 拝
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