閑話休題 ~ベルセルク(漫画)③登場人物たちと人生~
3『ガッツ』(主人公)
(1)孤独と仲間
『ガッツ』は孤児で、傭兵団の中で育つが、幼少期に育ての親(傭兵の師匠)の裏切りにあって以降、基本的に自分一人で生きてきた。
それが、縁あって『グリフィス』と出会い、彼が率いる「鷹の団」に入団、そこで後の恋人『キャスカ』や仲間たちと出会う。
だが、剣一本で一人生きることへの渇望(?)から、そして盟友となった『グリフィス』と対等でありたい意地から、せっかく得た仲間たちと離れて、一人修業(放浪)の旅に出る。
結局1年もしないうちに、巡りあわせで一度鷹の団に戻るが、自分が抜けた直後に『グリフィス』が事件を起こし、その結果、団が半壊したことに自責の念を感じることとなる。
それから間もなく、仲間たち全員が『グリフィス』転生の生け贄となり、かろうじて自分と恋人『キャスカ』だけが生き残るが、ここでも彼女を人に預けて、再び一人で復讐の旅に出てしまう。
そして2年間の旅から戻ると『キャスカ』が失踪しており、ここで初めて『ガッツ』は「もう大切な者を失いたくない」という必死の思いに駆られ、以後、最後まで『キャスカ』を護りながら行動することになる。
『ガッツ』は、どうしても剣を握って、一人で行ってしまう。
本人も「なんでいつもこうなんだ」と嘆く。
分かってはいるが、何度も大切なものから離れて、手に馴染んだ剣に頼って生きてしまう。
その不器用な意地や自分勝手さは、誰しもどこかに持っている、また人によっては、憧れているものでもあると思う。
この30年続く長編は、孤独に生まれ育った『ガッツ』が、大切なものを捨て、失い、そして旅路の中で大切なものに目覚めていく、心の旅の物語でもある。
僕は、そういう彼の不器用さ、自分の力だけで越えようとする更なる不器用さが、自分のあり様に照らして深く共感してしまう。
その共感に、全てが上手くいかない時期に、ずいぶん励まされたものである。
(2)強さの心地よさ
『ガッツ』は生け贄を逃れた際に片目と片腕を失い、その後、失った片腕にボウガンと大砲を仕込み、残る腕で大剣を振るう。
魔物たちは一匹ずつがハンパでなく強く、最初は一匹倒す都度に重傷を負うが、無数のストリートファイトの中で武器を使いこなすようになり、生身のカラダで怪物たちと渡り合うようになる。
少年マンガでは、2年くらい修行するとレベル違いに強くなるのは、お決まりパターンであるが、『ガッツ』を見ていると、「よくぞ死線を潜りぬけて強くなった」という様子が伝わってくる
「あいつ(『グリフィス』)に辿り着くまでの数え切れない夜がオレを叩き上げた」
という彼の言葉があるように、僕も、仕事でも何でも、彼のように無数の闘いを経て強くなっていきたい。
(3)仲間と装備
手短に書くが、新しい旅の中では「(たぶん)元魔王」「魔導士」「風の剣士」「妖精」「弟子」など、従来の兵団とは異なる仲間たちに出会っていく。
また、その出会いによって、人外の者どもと戦い抜くのに必要な、様々な新しいアイテムや技術を獲得していくことになる。
肉体を鍛え上げ、仲間を得て、アイテムと技術を獲得し・・・
いつの日か「この世ならざる者となった」『グリフィス』と、邂逅することになる予定だったのだろう。
4『グリフィス』
『グリフィス』は幼少期から一貫して「城」が欲しかった、つまり王になるのが夢だった。
この姿勢は一貫してブレないのだが、唯一、『ガッツ』といるときだけは、この夢を忘れるのだという。
つまり夢を追うよりも、『ガッツ』という盟友を失いたくない気持ちが上位にくる、ということらしい。
だから『ガッツ』が鷹の団を抜けるときは必死に引き留めたし、それでも出ていったので、自暴自棄になって事件を起こしてしまった。
夢を追うか、友を取るか。
『グリフィス』は友を取りたかったようにも見えたが、そもそも、その友のほうが裏切って出ていったのだ。
裏切った友が、自分が復活できないほどボロボロになった局面で、戻って来た。
そんな場面で、悪魔たちから「仲間全員を生け贄に『捧げて』夢を追う」べき提案をされ、そこで友への情愛を断ち切り魔王となった。
そして転生した後、一度だけ『ガッツ』と再会した局面で、彼は言う。
『ガッツ』「お前はお前がやったことに、裏切った仲間たちに 何一つ感じちゃいないのか」
『グリフィス』「言ったはずだ オレはオレの国を手に入れると お前は知っていたはずだ オレがそうする男だと」
そう言い残したグリフィスの背を見ながら、『ガッツ』は「今度はオレが置いていかれたのか」とつぶやく。
この話は広大な時空と世界観で描かれているが、二人の胸中と行動は、我々も思い当たるものがある。
決して裏切ったわけではないが、相手方には裏切りと見えること。
裏切られた当人は、気持ちを切り替えすべてを捨てて、自分の夢に邁進していく。
そしていつの間に、それぞれは自らの行くべき道を全力で進み、互いを顧みることもなくなる・・・
壮大な世界観で描かれているが、これは人生である。
僕ら読者は、いつの間にか物語の結末というより、彼らの行く末を追い駆けるようになっている。
彼らの旅路の果てに待つもの、選択の末に到来するもの、それは何なのかを見たかった。
さて、散々書き散らかしたが。
作者は未完の大作を残したまま、志半ばで急逝されたが、それでもこのお話についていえば僕は三つ、安心した点がある。
まず、恋人『キャスカ』が最終巻で一応、正気を取り戻したことである。
これがある時点からの旅の目的であったわけだから、少しホッとする。
次に、魔王となったグリフィスが、とてもマジメに帝国の増強に努めていることである。
自分自身で魔都を生み出しながら、妖魔を駆逐して帝国を護っているのだから、まあマッチポンプ的な話ではあるが。
しかし、おそらく本人は本気で夢を追っているだろうし、人間、人外の全ての者にとっての楽園を作ろうとしているのかもしれない。
そして一番安堵しているのは、『ガッツ』が『グリフィス』への執着を断ち切ったばかりか、夢を追う彼に対して一定の理解を持ち始めた点である。
いや、仲間を殺して魔王となり魔都を支配する者となった旧友を、理解するというのも変な言い方なのだが。
少なくとも時間の経過、環境の変化、そして戦いと迷いを命懸けで潜りぬけてきた自らの歴史が。
『ガッツ』を単なる復讐鬼から、少しずつ守るものを持つ真の戦士へと変えていった。
最終巻の手前で、『ガッツ』のその変化を見届けたから、ここで未完となっても、少し安心して僕自身の脳内イマジネーションを楽しむことができる。
と、いっても、まだ最終巻となっている40巻のあとのお話が、数話連載されたままとなっている。
だから、おそらく「薄めの41巻」がいずれ刊行されるのだろう。
その発刊を、次の楽しみにしたい。
すっかり、今週後半は「ベルセルク・ロス」となってしまった。
今日から、一から気合を入れ直して、全集中で業務に邁進したいと思う。
岸野康之 拝
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