税理士の仕事(3)「記帳」という作業の変遷
前回、税理士の仕事の中でも「記帳代行」と呼ばれる仕事がある、ということを書いた。
今日は、まず「記帳」とは何か、そしてどのように行われているかを書いてみよう。
1 記帳とは何か
記帳とは何か。
簡単にいうと、預金通帳、レシート、請求書その他、毎日のおカネや取引を、帳簿などに記録することで、家計簿の企業版だ。
記帳というのはこんな感じで、年間に数千行~数十万行の帳簿記録を作る作業である。
(これは当社の一部)
税金の申告では、税金計算のために作った帳簿書類を保存するのが法律上の義務なので、これは簡素にせよ綿密にせよ、しっかり作らねばならない。
そして、この帳簿をしっかり作らないと、その先にある決算書作成、さらに先にある税務申告・決算監査などができない。
帳簿を作ることが、企業経済を支えているのである。
2 昔の記帳
ところで、昔は当然これを、手書きで作っていたのである。
手書きで間違えないで作り、電卓を何千回も叩いて集計して、決算書を作る。
全部できたー、と思ったところで一ヶ所誤った数字があれば、作り直し。
それが、紙の世界だ。
そして企業規模を問わず、記帳をちゃんとする会社や団体には「手書きで伝票を書き、経理ができる担当者」が、結構いた。
税理士業務に「記帳指導」という項目があるが、紙で手書きで帳簿作成する時代には、その手書きする人たちに正しい記帳を教える仕事は、重要業務の一つであった。
しかし、手書きで帳簿を作れる経理担当者が、どこにでもいるわけではない。
それを会計事務所が「記帳代行する」仕事は、経理者がいない零細企業にとっては、重要な仕事であった。
3 記帳の変化
僕は、手書き記帳の時代にはこの仕事をしていないし、手書き記帳をしたことはない。
僕に限らず、ある世代以降は「会計ソフト」上の記帳しか、したことがないと思う。
因みに税理士試験は、短時間で帳簿記入と申告書作成を「手書きで」する試験である。
平成16年に僕がこの世界に入った時には、帳簿は完全に、会計ソフトで作成される世の中だった。
すでに、手書きで帳簿を作成する仕事から、この会計ソフトに記帳する仕事に代わっていたのである。
会計事務所が行う「記帳代行」も、当然手書きによる特殊技能から、会計ソフトを用いる記帳代行に代わっていった。
さて、記帳が手書きから会計ソフトに移り変わったことで、どんな変化が起きたのだろうか。
(1)記帳という作業に、字の巧拙、日本語の巧拙があまり関係なくなってきた。
(2)デジタルだと打ち込み、コピペなど容易でスピーディで、かかる時間が少なくなった。
(3)誤字脱字はもちろん、数字の修正等も容易になった(二重線を引く、とかいらない)。
(4)帳簿を作れば、あとはボタンをぽちっと押せば、決算書とか様々な書類が一発で完成する。
とにかく、上記の変化の中でも、(4)の影響が大きい。
手書き時代は、帳簿が完成してから電卓をさらに叩きまくるのが、会計業務の勝負だった。
ところが会計ソフトの時代は、帳簿をしっかり作ったら、あとはポチっと押すと決算書が印刷される。
(1)~(3)の点で、「超・時間短縮」「誰でも容易に帳簿が作れる」となった上に、会計事務所の特殊技能が試される、(4)「決算書作り」がボタン一つでできるようになったのである。
僕は統計的な把握はしていないが、おそらく「記帳を代行する」という会計業務は、いまも昔もそれなりに存在する。
しかし、「記帳さえできれば決算書が作れる」時代に入ったことが、記帳代行という会計業務の意味を変えることとなったように思う。
次回は、この記帳代行という仕事について、勝手な個人的見解を書いてみたいと思う。
岸野康之 拝(本日重量 85.2㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
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