税務調査(4)誰も知りえなかった事実の露見
オリンピック期間中の救護等のために、医師や看護師に呼びかけがかかっている。
なんでも医師200人、看護師500人の派遣を「スポーツ医協会」などに要請したとか・・・
医療の世界では「医療資源」という言葉があるが、これは薬や診療機器のような物的資源だけでなく、医師や看護師など働き手も含んで使われる。
医療経営者、役所、医療団体、そして僕のように医療機関中心で動く者は、各地域の医療資源の量や過不足の把握などが、重要事項となる。
地域の医療資源の過不足などが分かると、医療機関の個別事情もたいへん見えやすくなるのだ。
ところが、コロナからオリンピックまでの一連の流れの中で、政治家はじめ国の中心にいる人たちが、存外に医療資源についての認識が乏しいことが分かった。
特に医師という医療資源の取扱いの難しさ、統制しがたさ、医療現場の実情などについて、厚労省が統計上把握しているという意外、中央は何も知らないのかもしれない。
医療機関経営と医療資源の問題は、中央だけでなく、地方議会や役所においても理解されていない、と感じることが多い。
このテーマは、いずれブログで取り上げてみたいと思う。
今日は、過去の税務調査で経験した「誰も知らなかった事実の露見」について、お話したい。
会計事務所のポンコツ職員であった僕も、税務調査を何戦か経て、ジワジワと、力がついてきた頃の話だ。
僕が一人で担当していた某病院に、税務調査が来ることになった。
その病院は規模は大きいが、複雑な取引や親族関係の費用等もないので、特別な問題は出ずに終了すると思っていた。
事前打合せでも、僕と院長、事務局は、まあ何も問題は出てこない調査になるでしょう、と話していた。
調査期間である2日間の中で、数多くの質問に対して一つ一つ答えていく。
やけに念入りだな・・・と思うが、何事もなく時間が過ぎていった。
ところが2日目に。
「この通帳、この病院内にありますか?」
と尋ねられた。
税務署は、昔から銀行に取引履歴の照会等をかけることができる。
そうして税務署が銀行に照会した、取引履歴数年分を提示されたのだが、僕も、病院の方も、見たことがない通帳である。
そして、その取引履歴には製薬会社からの数多くの振込入金が、記録されている。
病院側で、慌ててその通帳の存在を調べ始めたら。
ほどなく、「医局預りの通帳」というのが出てきた。
医療の世界で「医局」という用語には、僕の理解では二つの使い方がある。
一つは、医科大学や医学部の各診療科において、教授を頂点として形成される医局。
もう一つは、多くの病院で「医師の詰め所、休憩室となっているスペースなど」を、医局と呼ぶことがある。
その後者の医局において、代々引き継がれてきた通帳が、存在していたのである。
その通帳には「製薬会社の治験・薬効検査への協力金」が、振り込まれてきていた。
そして、その病院の医局では、その通帳を特に隠したりする意図もなく、その収入を医師たちが様々な用途で使う慣行があったという。
問題は、その通帳が誰名義のどんなものであっても、病院(法人)も確定申告していないし、誰も個人でも確定申告していない。
完全に無申告の収入、現金が入った通帳であったことである。
結論としては、この通帳の分が丸々追徴課税となった上に、重加算税がついてきた。
仮装隠蔽どうこうではない、結果的に売上除外と呼ばれることとなった取引は、税の世界では厳しいペナルティを課される。
僕はこの件で、医療機関には普通に簿外通帳が眠っている可能性がある、ということを深く学ぶこととなった。
それ以来、どんな医療機関とご一緒することになっても、税務以外の仕事で出入りする公立病院等に行っても、必ず治験収入などの処理プロセスについて確認することとしている。
そして確認をすると、漏れとはなっていなくても、新任の事務長が把握していなかったとか、〇〇医師専管事項だったとか、あちこちから結構アブない回答が返ってくるのである。
余談かつ私見であるが、最近は法律の改正等で、製薬会社が以前のように医師たちに接待攻勢をかけることが、難しくなっている。
そのために市販薬検査とか治験とか、医師の現金収入につながる薬の検査が、かつての接待攻勢に代わる営業ツールの一つになっている感じがする。
それはそれで良いし、僕の杞憂であればなお良いのだが、いずれにしても、事務局などが預り知らないところで話が進んでいるケースが非常に多い。
ということで、医療機関の中には時々「誰も知りえない事実」があり、最悪は税務署が発見して露見することである。
一方で、税務署という役所は、自主的に「漏れてました~」という納税者には、とてもやさしい。
ぜひ今からでも怪しいものがないか確認して、万が一発見してしまったら、すぐに税理士に修正などの対応を依頼して欲しい。
実はブログで書くまで、税務調査の面白ネタは少ししかない気がしていたが。
だんだん、「あれもあった、コレもあった」と、思い出してきた。
引き続き、チョコチョコと書いていきたいと思う。
岸野康之 拝
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