病院等の機能(3)医療政策の基本構造はいま
少しばかり、医療の現状と最近の動向について、触れてみたいと思う。
以下は僕自身の言葉であり、実務現場の中で知りえた知見に基づくものだ。
私見も入っているが、長い間、医療経営者たちと交わして確かめてきた見え方であり、僕の医療界における肌感覚そのものである。
1 我が国医療政策の基本構造
日本の医療には、いくつかの原則がある。
(1)国民皆保険
健康保険に加入する義務があり、加入していれば最小負担で医療を受けられる。
(2)フリーアクセス
誰でもどの医療機関ででも、診療を受ける権利があり、また医師には診察をすべき「応召義務」がある。
(3)開業自由
個人診療所の開業は届出制で、医療法上の施設基準等の要件を満たすのであれば、自由に開業できる。
全ての医療資源が不足する戦後の日本においては、高度経済成長の中で、上記(1)~(3)がとても有効に作用してきた。
北欧などを中心に、より豊かな福祉国家も存在するというが。
我が国の医療政策は、いまも医療が行き届かない国々が世界中にある中で、日本を長寿大国に押し上げるまでの当たり政策であったと言える。
2 いま、どうなっているか
(1)国民皆保険
「
ただ、激しい少子高齢化の進展によって、若年層が納めた保険料が高齢者医療を支える構造になっている。
(2)フリーアクセス
いまもフリーアクセスの原則は変わらないが、地方部を中心に、急に診察を受けられる医療機関が減った。
自由に里帰り出産できる環境もないし、都市部でも救急車のたらい回しが発生するようになった。
(3)開業自由
この原則も変わっていないが、開業医が増加している。
ベッドのある病院は30年前に比して20%減少したのに対し、ベッドがない診療所は、30年前に比して25%増加した。
つまり病院勤務医が減少し、開業医が増加している傾向にあると考えられる。
3 基本構造の、さらに基礎を成してきた医局機能
上記(1)~(3)は、課題が多い現代にあってなお、我が国医療体制の基礎を成している。
しかしもう一つ、さらにそれらを支えてきた重要な構成要素がある。
それは、教育機関としての医学部(大学)の求心力とネットワーク、医局機能である。
ある時期まで、医局が指令により医師を他病院に勤務(派遣)させ、その人数や期間を調整する、医局機能が強く機能していた。
医局というと「白い巨塔」のような、教授を中心とした医師中心の世界観が強調されがちで、確かにその側面はある。
しかし、その世界観によって、医師本人の意思や人生はともかく、医局や病院の都合の一致により、ある部分の医療体制が堅持されてきたのである。
僕はこの世界の駆け出しの頃、厚労省から来た顧問に「医局の世界は、〇〇〇の陣取り合戦と同じだ」と教えられた。
実際に、大学病院や医局が、一つでも多くの医療機関を「息のかかった(医局員がいる)病院」にしていく様子を見てきた。
しかし、それは単なる権勢のためでなく、「医局員の養成」「医局員数の確保と、その食い扶持確保」を始めとした、合理的な理由がある。
多くの派遣先病院を持っていれば、相手の給料で医局員を食べさせ、大学が必要なときに呼び戻せる「医局員のストック」も増える。
医師たちの地域医療への思いは強いが、その地域医療の実践のためには、人員とその養成先(生活拠点)が必要なのである。
それらが例え、医局側の都合であったとしても。
そういう医局がもつ諸機能が、派遣先病院にも了承された上で、上記(1)~(3)の原則が支えられてきたのである。
次回は、その機能が喪失する契機となった出来事などについて、お話してみたい。
岸野康之 拝(本日重量 84.5㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
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