医療コンサル(10)医療と福祉の全体像
IOCのバッハ会長によると、日本人はこんな感じ、とか。
「日本人のユニークな粘り強さという精神、逆境に耐え抜く能力をもっているから。美徳を感謝したい」
どんな英語を和訳したのか分からないが、つまり「逆境に耐えられるだろうから、五輪やるよ」ということに見える。
しかし、逆境に耐えるかのような意思決定をしているのは一部の人で、僕ら末端の国民は、ただ「モノを言いにくい空気」に押されて黙っているだけだ。
その辺、日本人は無口で意見しないから、多弁な西洋人からは「我慢強いのお」としか思われないのでないか・・・
1 医療と福祉
医療と福祉は近く見えるが、基本的に違う。
医療は、医行為によってケガや病気を治すものだ。
福祉は、ケガや病気とは関係なく、全ての人が一般に生活を維持できるように公的に扶助したり支援する制度だ。
老人福祉、障碍者福祉、困窮者への福祉、児童福祉など、福祉の範囲は極めて広い。
その意味では、無償医療や低額診療を含めた、低廉な価格での医療提供は、広義の福祉の範疇に入るかも知れない。
いずれにしても、医療を定める法律が目指すものと、福祉を規定する法律群が目指すものは、近いが同一ではない。
別に同一性を否定しているわけでなく、もともと目的が違うから、全く相いれない部分があるのである。
2 介護保険の登場
医療と福祉は別のものであると上述したが、実際には特に高齢者医療・高齢者福祉においては、医療が高齢者福祉の一端を担う時期が長く続いた。
また福祉提供は、主に市町村などの行政措置によるものが多く、負担と給付の関係が曖昧だったり、介護サービスの地域差などが顕著になっていた。
こうした様々な問題に対処するために、2000年度から「介護保険法」が成立し、介護保険料の納入と介護施設サービスの給付が、仕組みとして体系づけられた。
これにより、少なくとも制度上の建前としては、医療をする制度と高齢者福祉を提供する制度が、キレイに区分、明確化されたわけである。
3 地域包括ケアシステム
しかし実際には、制度をどのように変更しても「少子高齢化」の急速な進展に、変わりはない。
むしろ、それまで以上に「医療福祉が一体的に」、高齢化問題に取り組んでいく必要があった。
その国家的な取り組みの中心に、「地域包括ケアシステム」が位置付けられることとなった。
地域包括ケアシステムでは、高齢化してからの数十年、病気になったら適切な医療機関に行き、介護が必要になったら適切な介護サービスが受けられるように、様々な仕組みがこの包括システムを支える。
そして極力、住まいでも医療・介護サービスが提供できて、かつ、住まい等で最期の「看取り」までできるように、様々な仕組みが作られていった。
もちろん、こうしたシステムの経済的誘因はあり、それは医療保険財政を堅持していくことだ。
そのため、高コストである医療機関の入院を最低限に抑えていくための仕組みも、非常に細かく張り巡らされている。
そして、そのことの是非などを問うている間もなく、高齢化社会はさらに進展し、地域包括ケアシステムは全国各地でしっかり形成されてきているのである。
昔は、介護・介助を受け、福祉施設に入り、最期は病気になって医療機関に入る、という流れだった(イメージ的に、は)。
しかし現在は、医療機関の入院が長くなると老健・特養に入り、最期の段階になるとその施設で、または住まいに戻り、「看取られる」こととなる。
このように、高齢者人口の圧倒的な増加が、数十年の間に医療と福祉の関係性を大きく変えていくこととなったのである。
次は、医療と福祉への業務的なかかわり方について、少し触れてみたいと思う。
岸野康之 拝
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