医師と税金(8)所得控除シリーズ ⑤寄付金控除withふるさと納税
東日本大震災から10年が経過し、いまも復興や原発問は道半ばの状況にある。
常々思うのは、「国土政策を、真剣に考えるべきでは」ということだ。
震災後しばらくは、次はどこが危ないとか、色々なリスクの議論が出ていた。
しかしその頃から、災害には厳しそうな高層マンション建設が、全国で加速した。
そして東京オリンピック決定で、多くの人的、経済的リソースが、東京に集中した。
資本が集中する場所に資本投下するのが、資本主義成長の近道だ。
「選択と集中」の言葉通りである。
しかし、一極集中する成長地域をよそに、疲弊しまくる地域経済がある。
やがて、そこも引っ張られて成長する、というのは紙の上の理論で、その日はいつ来るか知れず、もしや永遠に来ないかもしれない。
攻めの経済政策は大いに結構、あまり関心はないが、五輪も万博もやるといい。
しかし、せめて小さな国全体の潤いを考えた国土政策を、常々望むところである。
というところで、所得控除シリーズのラスト「寄付金控除」と、その中の「ふるさと納税」を見てみたい。
15 寄付金控除
(1)寄付金控除の概要
納税者が、一定の団体などに寄付をすると、寄付した額から2000円引いた金額の所得控除が受けられる。
10,000円の寄付をしたら、8000円が寄付金控除できる。
だから、税率が20%の人は1,600円、40%の人は3,200円の減税だ。
あと、寄付の限度額は総所得などの40%(給与所得1000万円の人は400万円まで)というルールがある。
その寄付金控除できる一定の団体は、だいたい次のようなところである。
①国や自治体
②公益社団法人ほか一定の団体の事業で、財務大臣がOKしたもの
③あと一定の「独立行政法人」「地方独立行政法人」「日本赤十字社」「社会福祉法人」「公益社団(財団)法人」「私立学校等」「認定NPO法人」などなど・・・
④個人が行う、いわゆる「政治献金」で一定のもの。
→ 政治では、より有利(かもしれない)税額控除制度もあるので、関心がある方は一番下の国税庁URL参照。
なお寄付金控除を受けるには、自営業者でも勤め人でも確定申告が必要になる。
税務署の税務相談員などしていると所得層や職業に関係なく、何かの寄付をされている方は、存外に多い。
ぜひ一度、試してみていただきたい。
(2)ふるさと納税の概観 ~寄付金控除制度のうちの一つ~
ふるさと納税が始まって、もう13年が経っている。
「納税」と名がついているが、この制度はもともと「寄付金控除」を利用した、大幅リメイク版の寄付金控除である。
表面のお金の流れは、我々納税者が、各自治体に直接寄付をしているわけなので、本当なら「ふるさと寄付金」と呼ばれるべきものだ。
ただ我々から見れば寄付だが、お金を受け取る自治体サイドには事実上の税収なので、「ふるさと(自治体)納税」ということになるのである。
【仕組み】
まず国の所得税について、寄付金控除を受けることができる。
続いて、地方の住民税についても控除を受けることができる。
そういう計算式の結果、適切な計算をすれば、数万円以上の寄付をしても、持ち出しは2000円程度になる。
おまけに結構いい「返礼品(寄付額の3割程度の価値のもの)」がもらえる。
10万円寄付して2000円だけが持ち出しで、3万円分の返礼品が付いてくる感じだ。
令和元年度の利用実績は、寄付額4857億円、寄附件数2300万件以上。
利用者人数は、400万人を超えているようで、大人気国策となっている。
ネット上のふるさと納税用サイトを使うと、初回登録から寄付申し込みまでが10分程度でできる。
一度初回登録を済ますと、思い付いたときにAma〇on感覚で気に入った返礼品を探して1分くらいで寄付できる、ちょっとした贅沢な遊びだ。
また、自分の所得で「有利な寄付はいくらまでか」、サイトにシミュレーション機能も付いている。
例えば、独身で年収1000万円だと172,000円まで有利に寄付できる、というようなことがすぐ計算できる。
(3)ダチ公と飲むカネ、公的団体への寄付金、そしてふるさと納税
同じ1万円の使い道を、比べてみよう。
①ダチ公と呑んで1万円使う場合
A 使った1万円は、1円も戻ってこない。
B 友情や絆、楽しい気持ち(たぶん)が得らえる。
②公益的な福祉団体に、1万円寄付をする場合(所得税率20%の人の場合)
A (1万円-2,000円)= 8,000円 8,000円×20% = 1,600円の減税。
B 役に立ちたい団体に、貢献した気持ち(たぶん)が得られる。
③気に入った自治体に、1万円のふるさと納税をした場合
A 負担は(ある額まで)2,000円なので8,000円減税、返礼品3,000円程度分GETで、1万円出して1.1万円のリターンな感じ。
B ふるさとに、貢献した気持ち(たぶん)が得られる。
さて、あなたは明日、ダチ公と飲みに行くか。
公的団体に寄付をするか、それともふるさと納税をするか・・・
(お友達、とても大切)
ふるさと納税は、「納税者の街から、寄付先の街への資金還流」である。
正直、それが統計的、現実的に、何を潤して、何を損なっているかは判然としない。
それでも僕は、国が税制という仕組みを使ってこの「小さなお祭り騒ぎ」をしていることを、歓迎したい。
多少の無駄はあれど、地域活性化の側面はあるし、いまやサラリーマンにも使いやすくなり(ワンストップ制度)、ちょっとした庶民の楽しみである。
絶対に正しい試みなど、存在しない。
そうであれば、国全体に富やサービスが行き渡るように、国には色々チャレンジして欲しいと思う。
【寄付金等に関する 国税庁のURL】
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1150.htm
- *ふるさと納税の情報は、「ふるさと納税」と検索するといろいろ出てくる。
さて、寄付の話ついでに。
次回以降は「医療制度と寄付金」について、何度か、書いてみたいと思う。
岸野康之 拝(本日重量 85.9㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣))
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