その記事の向こう側にあるべきもの
4月3日(土)の日経新聞一面トップは、次のような見出しだった。
「民間病院、コロナ対応遅れ 中規模施設、4割が受け入れず」
国や自治体の受け入れ要請に、中規模民間病院のうち4割が対応していない、という論調だ。
以前書いたが、我が国で「救急告示病院」として救急患者の受け入れる、と標榜しているのはベッドがある8000以上の病院のうち、半数以下だ。
病院は、慈愛の精神であらゆる患者を受け入れると思われがちだが、どれだけ慈愛の精神をもってしても、受ける体制がない病院が大半を占めている。
外来機能がない回復期リハビリの病院、長期入院専門の病院、精神科の病院など・・・
それを思うと、4割が受け入れないというのは肌感覚として納得の数値であり、「それで、なにか?」という感じがする。
それと、この新聞記事にはもう一つ、見当違いな論調があった。
「経営余力に乏しい小規模病院が、受け入れに及び腰とされてきたが、200床以上の病院でも民間の協力が進んでいない実態が浮き彫りになった」
病院に限らずあらゆる業界で、小規模な団体になるほど「総合デパート」はできない。
経営余力の有無に関係なく、規模が小さくなるほど、できることの選択肢は少なくなるのは当然である。
では、小規模でもお金があって、医師と看護師が充足していればコロナ患者の対応ができるのか?
経営余力があるところから、順々にコロナ患者を受け入れれば良いのか?
と、様々な疑問ばかりが次々浮かんでくる。
まずそもそも、民間病院というのは驚くほど補助金や公的援助がない、ただの「民間企業」である。
国や自治体の病院は、補助金や非課税があるから、理論的には、民間より人員や設備の確保ができて当り前である。
論調としては、「民間でやってないところ」を探すより、『公共なのにまだやってないところ、できない理由』を徹底して探すべきである。
この辺りの話は、どこかで拾ってきた単純な病床数や経営余力で、再構成できる問題ではない。
医師、看護師、リハスタッフは年々順調に増えているのに、なぜ勤務医の苛酷労働は無くならないのか。
なぜ救急施設は減少していくのか、なぜお産ができる街が消滅していくのか。
ベッドがある病院は減るのに、ベッドがない、救急など受けられないクリニックが順調に増えるのはなぜか。
そもそも日本中に「空床が多い自治体病院がたくさんある」のに、なぜベッドが無いといわれているのか。
コロナ軽症、無症状の患者をなぜ「ガチガチの感染症病床に入れるべき」とする議論が、当り前の論調になっているのか。
こうした根本的な議論や経過が一切無視され、おそらくどこかから垂れ流れてきた情報が、そのまま記事になっていた。
ここ数年の新聞の専門記事の劣化は、かなり目を覆う状況にある。
お勉強が飛び切りできる人たちが記者になっているから、確かに、作文は上手だ。
しかし、「なぜそうなっているのか」という、その記事の向こう側にあるべきものが、全く記されていない。
ネット情報が氾濫しているから、新聞を売るのも大変な時代なのは確かだ。
しかし、そんな時代だからこそ、浮かんでは消えていくネットメディアにはできない新聞のあり方があるはずだ。
もっとも、それは新聞だけの話ではない。
我々もまた、自分が記している活字の「向こう側にあるべきもの」を深く洞察して、日々を過ごさねばならないのだろう。
岸野康之 拝(本日重量 86.3㎏(着衣) 2021年2月21日 89.3㎏(着衣)) → 一進一退が続く。。。
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